岡山県

西粟倉

にしあわくら

自治体の機能をスムーズにする「中間支援組織」。そのスタッフと役場に聞きました

西粟倉村のローカルベンチャー事業を支え、スムーズにしている中間支援組織があります。

それが『エーゼロ(株)』のローカルベンチャー事業部です。

どのように動き、“中間支援”をしているのでしょうか。また、村にそれがあることの意義とは——。

同社の高橋江利佳さん、大井健史さん、大谷夏子さんと、元『エーゼロ』で同事業部の初期メンバーである林春野さん、西粟倉村役場の産業観光課課長の萩原勇一さんにお聞きしました。

 

コーディネーターは、村外の人にとって“案内人”のような存在

— 『エーゼロ』のローカルベンチャー事業部は、村の中間支援組織として活動してきました。どのような仕事なのか、教えていただけますか。

高橋:一言でいうと、村で挑戦したい人たちと村のリソースや可能性をつないでいく仕事です。具体的には「西粟倉ローカルベンチャースクール(以下、LVS)」の事務局やコーディネーターをはじめとして、村で起業やインターン、就職したい人の入口として機能することを目指しています。

大井:中間支援組織のコーディネーターは、村外の方にとって“案内人”のような存在です。村への移住や村での起業・インターン・就職の際にコーディネートをすることが多く、対象にあわせて村の必要なリソースにアクセスできるように調整します。一方で、村内で起きていることの相乗効果を生むため、村内の各所へ情報を伝えて価値を生んでいくこともしています。

前職で人材サービス会社の営業職を経験し、エーゼロに入社して3年目を迎える大井さん

大井:また村役場には、「どういう企画にするか」を考える最初の段階から入らせていただき、共に議論しています。一般的な発注・受注関係というよりは、一緒に考え、動くチームのような気持ちで仕事をしています。基礎資料や成果物としての報告書なども作成しているため、基礎的な事務処理力や各所との調整力も必要です。

大谷:村の人たちの「こうなったらいいな」という願いを実現するため、機会が生まれ、つながりができるよう意図してアクションしていく役割です。やる気と熱意はあるけれどやり方がわからないとか、時間がない場合は、その都度調整もします。

新卒で地域おこし協力隊として村に移住し、ローカルベンチャー事業に携わる大谷さん

林:村のリソースや関係者を把握することが、中間支援組織のコーディネーターの大事な仕事だと思います。事業者のことだけではなく、村全体を把握して——、例えば「将来こういうことが村で起こりそうだ」という予想も含めて把握していくのが、大事な役割かなと。私は出産や育児で今は『エーゼロ』を離れていますが、客観的に見ても、地域で緻密につながっている糸を把握している存在って、あったほうがいいなと思うんです。

— 「あったほうがいい」って素敵な機能ですし、組織の存在感としていいですね。

高橋:私たちのような組織・部署がなくても、十分に回っている地域はすばらしいなと思いますが、過疎地域は人の数がそもそも少なくて、つなぎ役や穴を埋める存在が必要だと思います。

大谷:ローカルベンチャー事業部が事務局としていろいろな仕事を担い、村の人からもそういう組織だと認識されていることは重要だと思います。そうした組織に所属しているからこそ、地域の事業者や役場をはじめとしたさまざまな方にお話をきくことができますし、それらの情報をメンバーで共有して、各調整やコミュニケーションに活かしていけます。

大井:中間支援組織として、「ここに相談したら、一歩進みそうだな」と思ってもらえると嬉しいです。そういう存在になれるよう、多くの情報を集め、機会を用意することにこだわっていきたいです。

「LVS2020」の様子

ある人の挑戦が実現していくのを応援できる仕事

— 初代メンバーの林さん、高橋さんにお聞きします。そもそも、西粟倉村の中間支援組織はどのように始まったのでしょうか。

林:「LVS」は2015年に始まりました。2年目に、地方創生推進交付金を使ってより力を入れる環境を整えられることになり、中間支援組織ができました。まず「村を知る」ことが最初の仕事で、途中からは先ほどお話したように、村のリソースや関係者を把握し、つなげていく仕事に変わっていきました。

ローケルベンチャー事業部(当時はローカルベンチャー支援室)の立ち上げメンバーであり、室長だった林さん。前職では地方創生関連事業を行うNPOでコーディネーターとして働いていた

林:なにせ初めてのことで、スタッフ自身が移住して環境変化による不安を抱えながら、チームとしてどう動くか、手探りでしたね(笑)。地域おこし協力隊の方々のサポートについても、面談などの仕組みづくりをしたり、村ぐるみで起業家を育てる土壌づくりをしたりしていました。

数年前から現在は多様な事業が増え、「何でもやれば“新しい”」という状況ではなくなってきています。起業家が既にあるリソースや事業を理解し、それらをどう生かして自分のやりたいことを実現していくか——。それを支えていくほうに少し変わりました。

高橋:村の規模が小さいだけに、役場と密にやりとりをしてきました。まるで、同じ会社に所属しているような距離感で。役場だけでなく、村内でいろいろな関係性ができていると、各所に相談や依頼がしやすくなります。頼れる人がどんどん増え、より多様になっていきました。

ローカルベンチャー事業部の初期からのメンバーで、林さん卒業後は「LVS」を担当してきた高橋さん。前職ではデザイン会社のディレクターを経験

— 役場や村の人との関係性がベースにあり、窓口になるのですね。「LVS」で苦労したのはどういう点でしょうか。

林:「LVS」では最終選考があり、村へ移住・起業する人を採択するのですが、採択・不採択を決めるのはつらい場面でもありました。もちろんうまくいってほしいと思って伴走するのですが、結果はその人の優劣ではなく、「この採択がその人にとって本当にいいことなのか。その人が幸せになるのか」を見つめようと、チームでよく話していました。

高橋:その人のことも村のことも考えつつ、その挑戦が実現していくよう後押しをするので、バランスがむずかしいところはありました。

— 嬉しいとき、大変なときはどういうときなのでしょうか。

高橋:嬉しいのは、採択者の挑戦したいことが実現し、村の願いともマッチして、村の価値が上がること。例えば、岡野真由子さんのモンテッソーリ教育は「そういうのが欲しかったの!」というママさんがいて、村の教育の質がぐっと上がりました(参考記事はこちら)。それが応援できるのはいい仕事だなと思います。小さな村なのに多様になっていくことにワクワクしますし、嬉しいです。

「LVS」での岡野真由子さん

高橋:大変なことは二つあります。一つが、ストイックな仕事であること。人と向き合うぶん、自分とも向き合わなくてはいけません。その人のことを深く考えられていたかな、と反省したこともありました。もう一つが、距離感です。サポート業務をしていると、「私がここまでやってあげたらうまくいくかもしれない。やってあげなきゃ!」という気持ちになるときがあるんです。でも、ご本人が自主的にやらないと、結果としてうまくいかないんです。

大谷:私は、何かを実現したいという人がそこに近づくきっかけやつながりをつくれたときは嬉しいですね。また、役場などのさまざまな方から、西粟倉のこれからについて前向きで視座の高いお話を聞くとワクワクします。「これが実現したらこんな村になる」という絵が見えてきて、それに共感できるのも楽しいです。

大変なのは、「こうなったらいいな」と自分が思うところに寄せたくなること。実際に手足を動かしてプロジェクトや事業を進めていく人の考えや気持ちを変えることはできないし、かわりにもなれないので、「こうなったらいいのに」という自分の思いだけが大きくなっていくともどかしく苦しくなることもあります。

「LVS」を終えて、参加者や審査員、スタッフで記念写真

村には、“境界をにじませる存在”が必要

— ここからは村役場の萩原さんにお聞きします。村にとって、中間支援組織があることの意義は何でしょうか。

萩原:自治体は、自分たちの地域であればリソースなどを見渡しやすいけれど、人員が少ないこともあって、外の地域とつながることは得意ではないんです。つながる手段がなく、それに慣れてもいない。だからこそ、中間支援組織が村外の人や民間企業の窓口になってくださることが、一番大きいですね。

地域にいると、その範囲内の思考になりがちです。村を客観的に見ていただき、ご提案いただける部分にも助かっています。中間支援組織の定義として、活動する地域に存在していることは必須だと思います。そうすると自分たちが暮らしのなかで見て感じていることがありますから。自治体とは違う“半分外で半分中”という目線で、地域を見る機能が地域内にあることは重要です。

— 地域内にいる中間支援組織と、密にコミュニケーションをとり、共に動いていらっしゃるのですね。

萩原:コンサルタントを入れて計画をたて、その通りに自治体が動くというやり方では変わらないと思うんです。「官から民に発注する」という考え方ではなく、協働体制で共に汗をかくことが大切です。

でも、その地域に合う中間支援の形がそれぞれあると思います。地域ごとに違うはずなので、カスタマイズは必要です。

— カスタマイズさせ、柔軟に対応することが求められますね。

萩原:継続するうえで求められる変化もありますから、その対応を中間支援組織にどう実装していくかは、苦労されるところなのかもしれません。山の登り方を開発して、半歩先を行き続けるのが中間支援組織の宿命で、それをやり続けるのは大変だろうなとも思っています。

— 変化という意味では、2021年度から「LVS」は「TAKIBIプログラム」に変更されます(参考記事はこちら)。引き続き中間支援組織の存在が、村にとって大事ですね。

萩原:はい、中間支援組織なくして、西粟倉村のローカルベンチャー事業はできないと言ってもいいほどです。自治体と民間の中間支援組織の持っているリソースは違うので、お互いに使って相乗効果を出すことができます。

西粟倉村のようなローカルの自治体は、地域内だけで考え、動いているのではだめで、外との交わりを起こさないといけません。“境界をにじませる存在”が、必要なのだと思います。

エーゼロ(株) ローカルベンチャー事業部
https://www.a-zero.co.jp/