岡山県

西粟倉

にしあわくら

生まれてから死ぬまで「生きるを楽しむ」ができる村を目指して。「自分×地域福祉」を1年間研究する研究生募集

上質な田舎づくりを目指す場で『自分×地域福祉』を研究する

人口約1,500人、高齢化率約35%の村、岡山県西粟倉村。(以下、村と書きます)。『百年の森林(もり)構想』を掲げ、「生きるを楽しむ」をキーワードに未来への想いを共有する森づくりや、大切な自然の恵みを大切な人たちと分かち合う上質な田舎づくりを進めています。多くの町村と同様に高齢化率は上昇傾向が続いていますが、都会とは違って、山や畑の作業に楽しさや生きがいを感じ、朝6時に村内放送で流れる音楽とともに、散歩や畑仕事などの活動を始める。まさに「生きるを楽しんでいる」元気なお年寄りがたくさんいることが、移住してみてわかりました。自分自身も、村内の移動は基本自転車。布団で眠れる時間は倍近く?になり、日々の景色の移ろいや、家を吹き抜ける風の心地よさを感じて暮らしています。

私は、西粟倉ローカルライフラボ(※)の第1期研究生として、春から村に移住をしました。昨年度までは、東京都内のシンクタンクで、自治体や業界団、美術館・コンサートホール等の文化施設等の調査・研究などを行う主任研究員・研究ディレクターで、昨年は全国の介護保険事業計画をはじめとする保健福祉分野の計画策定支援を行っていました。

今の私は、「動くを楽しめる村」ってどんなのだろう、ということを考えることにワクワクしています。自分自身が鉄ちゃん(鉄道好き)ということもあるかもしれませんが(笑い)、「たくさん動くことが人生を豊かにする・成長する」という揺るがない想いがあります。そこで今は『医療・福祉×交通・観光』の連携、複数分野に焦点を当てた研究や実践を行っています。

※西粟倉ローカルライフラボとは、原則1年間村で「自分×地域」をテーマに研究を行うプログラム。西粟倉ローカルライフラボ福祉コースとは別のプログラムで、2017年より募集を開始しました。

西粟倉ローカルライフラボ1期生 猪田有弥さん

村の介護保険料を切り口に、現状を把握してこれからを考えよう!

7月から村内の保健福祉関係者が集まり『保健福祉戦略会議』が開かれています。今年中には、2019年度以降の村の保健福祉の将来像について、これまでの枠組を超えることも含め、先進地事例や外部専門家の意見なども参考にした案を取りまとめる予定ですが、喫緊の課題は、全国トップクラスの介護保険料(※)をこれ以上上げない、できれば下げたい、という村としての危機意識からどういう打ち手を考えるか、にあります。

小手先の改善には限界があるのはいうまでもないことですが、村の福祉という広い分野を議論するにあたり、まず介護保険料・介護保険制度から検討するのは、村の現状と課題を考えるうえで、保険料という数値目標があるため分かりやすい切り口といえます。

村で多くの事業の立ち上げを支援し、自らもその実践者であるエーゼロ株式会社の代表である牧大介さんと、戦略会議の担当で村の介護保険事業のキーマンでもある井上大輔さんに現状と課題、さらに村で今考えていることや今後の方向の可能性を話していただきました。

(対談は8月21日に実施。敬称は略しています。)

※介護保険料は、市町村ごとに独立した会計で成り立っており、3年に1度その基準額が見直されます。2018(平成30)年度から3年間の介護保険料は月額7,500円。全国平均が5,869円なので、1,600円以上も高く設定されてしまいました。1年に換算すると、その差額はなんと約20,000円!また、福島県の避難指示区域や小さな離島の自治体など特殊なケースを除くと、全国で20位圏内に入る数字です。

エーゼロ 牧大介さん(左)と西粟倉村役場 井上大輔さん(右)

牧:今日は村の福祉のワクワクする未来を考えていきたいのですが、とはいえ、村の今の課題をきちんと把握しないとソワソワばかりしてしまいます(笑い)。そこでまずは、そもそも介護保険料が上がった理由を聞かせていただけますか。

井上:理由は明確で、村外の入所施設(特別養護老人ホームなど)に入った人がここ2~3年間想定以上に増えたことが大きな理由です。数年前と違って、村外の施設へ入りやすくなったり、在宅ではなく施設での生活を望むケースが増えています。

牧:村内や近隣の介護サービスの現状はどうですか。

井上:村内でいうと、訪問介護と通所介護、小規模多機能のサービス事業所があり、社会福祉協議会が運営しています。また、居宅介護支援事業所や地域包括支援センターは役場が行っています。ただ、それだけで安心して在宅で暮らし続けることができるかというと、例えば訪問看護が村内になかったり、協議体の設置や生活支援コーディネーターの効果的な運用など、昨今のニーズに応じた新しい生活支援の在り方を十分検討しきれていないのが現状です。

牧:村の高齢者福祉を考えていくにあたり、どのような人たちに注目をすべきだと考えていますか。

井上:村の人口ピラミッドを作ると、大きく二つのことが見えてきます。一つには要介護認定率は85歳を境に急上昇するのですが、その予備軍である80歳代前半の女性が多い。この層の方が元気に在宅生活をどのくらい継続できるかということ。もう一つ、50歳代後半から60歳代に注目すると、いかにして「健康寿命」を伸ばすかということもあります。実は、この層は女性より男性の方が多い世代なのですが、今の過ごし方が将来の身体的・認知的機能に直結するとも言われているため、今のうちから中期的な健康寿命の延伸を図っていく必要があると考えています。

【村の年齢別人口分布(人口ピラミッド)】〔出典:住民基本台帳 2017(平成29)年1月1日現在〕

牧:確かに、今と同じように施設入所者が増えると、今後も介護保険料が上がってしまい困ります。このままだと誰もワクワクできないですね。

井上:介護度を低い状態で維持する、可能であれば効果的にリハビリを行いより元気になってもらうことはとても重要だと思っています。近くでは奈義町では認定率も下がっているようですし、先駆的な地域で実績を上げている事業所もあるようなので、戦略会議などでも検討を重ね、村でも具体的なアクションをおこしていきたいです。また、在宅での介護がおこなえる環境を整えることも重要になってきます。ただ、この地域は訪問看護の体制も十分でないのが実情なので、家族も安心できる在宅介護・医療の方向性も探っていく必要があると思っています。

 

保健・福祉・医療以外の分野との連携が、これからの介護予防のカギ

牧:介護予防にもつながるこれからの高齢者の健康維持の方向性としては、どういうことを考えていますか。

井上:ズバリ「保健や福祉、医療目線ではないところにあるケア機能を掘り起こし、地域内での活動を増やす」ことが重要だと考えています。

特に自分で自由に外出しずらくなった高齢者は、世間というかこれまでの暮らしと隔離した状態になっている現実もあるように感じています。でも、高齢になっても、介護度が上がったとしても、「生きるを楽しむ」ことが基本だとすると、これまでの趣味や年齢に応じてちょっとした社会貢献できるシゴト(活動)や、そういった活動を支えるためのコミュニティがいくつかあると、関わる人たちが相互にコミュニケーションができるようになってくる。誰にも安心できるコミュニティがあり、日常にコミュニケーションがある、そんな村だと、生きることや楽しむことそれ自体が介護予防につながっていくと思うのです。

さらにいうと、多世代の交流やコミュニケーションは、お互いにとってとても刺激的だと思います。高齢者が集まる場所に子どもたちが空き時間にちょっと遊びに来たりするようなことが日常であることが大事だと思うし、生後間もない赤ちゃんと90歳代のおばあちゃんの交流なんてのも素晴らしいと思う。もっといえば、観光客や事業視察の人たちと高齢者が普通に交流するのもありだと思う。ローカルベンチャーに勢いのあるこの村らしい新しい介護予防につながるコミュニケーションの形かもしれません。

牧:まさに国のいう「地域共生社会(※)」ですし、高齢者中心の「地域包括ケアシステム」が、より進化し『多世代型地域包括ケアシステム』になりそうな予感があります。

ところで、「保健や福祉、医療目線ではないところ」については、具体的にはどのような分野との連携があると思いますか。

井上:いろんな連携のアイデアがあると思いますが、例えば「農業」との連携。次に「社会教育・生涯学習」との連携。さらに、地域コミュニティ、具体的には将来を見据えた新しい時代にマッチした「自治会」と連携です。これらはすぐには難しいですが、これからの時代にマッチした連携を若い世代と共に考えていくべきだと思います。

※「地域共生社会」とは子ども、高齢者、障がいのある人など全ての人々が地域において暮らし、生きがいを共に創り高め合うことができる社会のこと。

 

「生きるを楽しむ」の究極の目標は、幸せな最期を皆がどう迎えるか

牧:高齢者を含め村民一人ひとりが「生きるを楽しむ」ためには、ライフスタイルやライフサイクルそのものの見直しも必要になってくる、ということですね。

井上:大きな話だし、議論しにくいテーマかもしれないけど、「西粟倉村でどうやって幸せな最期を迎えられるか」ということも、これからは真剣に考えるべきかもしれない。お医者さんとも話すのだけど、「死んだ人の感想は聞けない」(苦笑)。だから何がベストか、こればっかりは想像しながらやることにはなる。死に方を考え・変えていくということは、生き方やその根底にある価値観を変えることなのかもしれません。一つ言えるのは、一人ひとりが「この村のこの家で一生を終われば、何も怖くないし寂しくない」と感じられるようになれば、変わってくると思う。本人だけでなく、家族や地域の人もお互いにそう思うようになっていけばもっといいのではないか。

そうすると、近くに身寄りの少ないIターン者も安心して年を取れるようになるから、結果としてもっと移住・定住者が増えるだろうし、安心して老いを受けいれられることが定着すると、移住者が自分の親の老いを受け入れられる村になる可能性も秘めています。もしかすると、「親の移住先」といういう新たな人の流れがでてくるかもしれない。

また、健康寿命と平均寿命との差である日常生活に何らかの不便のある約10年間をどう生きるか、どういう暮らしが理想的なのかも村民皆で考えていきたい。特に男性は若いころからの仕事への関わり方や、家庭のライフスタイルそのものを見つめることとも大いに関係するので、これは本当に長いスパンで考えていかないといけないと思っています。

牧:これまでの話をまとめると、今後、福祉分野の問題意識を起点としながらも、地域福祉の在り方を大きな視点で横断的に考えられる人が入ると、その具体的な解決策として、創発的な動きが生まれるような気がしてきました。

井上:一人ひとりにとっての居心地のいい安心できる場所があると、そこには一緒にいたい人が集まってくると思います。純粋に何歳になってもやりたいことが初められる、楽しめる。そんな空気感と環境をつくることが福祉の視点でも大事だと思っています。

そのためには、「生きるを楽しむ」象徴的な人が地域の中に増えてくる様なアプローチを行うことが、安定して継続的に発展する地域の福祉の基盤づくりに必要な、これからの行政の役割なのかもしれません。

牧:介護保険料、高齢者福祉からずいぶんと話が広がりましたが、とても広く深い問題意識や将来像を検討していることがよくわかりました。ありがとうございます。

 

誰もが生まれてから死ぬまで『生きるを楽しむ』村の実現に向けて、『ローカルライフラボ福祉コース』で何ができるか

村の高齢者・赤ちゃん・障がいのある人など多様な個性を持つ一人ひとりが、村のふだんの暮らしと接点を持って、幸せに「生きるを楽しむ」村。

このような村の理想に向かって、既存の高齢者福祉の枠を超えて、先進地の専門家の知見や他分野のリソースを存分にクロスさせて、新しい地域福祉の在り方に昇華させて、実証していく。できれば新しい会社や事業所を立ち上げたり、村の成功事例を他の地域に横展開できるようにしていく。そんな思いを持ちながらやっていくメンバーが、『ローカルライフラボ福祉コース』で求める研究生の理想像です。

なお、エントリーに資格(※)が必要というわけでは一切ありません。

研究生の考えるキャリアパスやこれまでの経験をもとに、上級資格取得についての支援、全国の先進事業所との協力体制の確保や、未来像を共有するための視察等も行う予定です。また、ローカルライフラボ1期生には、臨床経験の長い助産師もいます。また、私自身も介護や障がい者福祉・地域福祉に関する全国自治体の計画策定を支援してきたコンサルタント経験があるため、それぞれの持つネットワークやスキルを出し合いながら、プロジェクトを進めていきたいと考えています。

ただし、一方的に研究生が「支援する」というだけでは、村の人たちの幸せも、地域の幸せも成り立ちません。村の人たちからも学ぶことはたくさんあります。ただゆったりと散歩している方との挨拶ひとつからでも、その人のこれまでの地域での生きざまが見えてくるような気がしています。一人ひとりの生きざまや個性に触れることで、私たち研究生も学ばされ、成長していく。そういう関係性を気づくことができる仲間に来てほしい。

誰もが生まれてから死ぬまで生きるを楽しめる村を目指し、村の福祉の未来を考え、実践する『ローカルライフラボ福祉コース』。村内や近隣地域からの応募も大歓迎していますので、ぜひ、新たな視点で一緒に考えてみませんか。

※ここでいう資格とは「介護職員初任者研修」「介護職員実務者研修」「介護福祉士」「ケアマネジャー(介護支援専門員)「福祉用具専門相談員」「介護予防運動指導員」といった介護や福祉に関する資格取得者や、社会福祉士・保健師・看護師・栄養士・調理師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などの介護現場で活躍できる国家資格所持者のことです。

西粟倉ローカルライフラボ福祉コース 募集サイト(11/25までエントリー受付中)
https://www.a-zero.co.jp/lvslll-nishiawakura-lll-fukushi