ゼロから始めた西粟倉村での養蜂事業。 創りたいのは「森から生まれ森を産み出す自然蜂蜜」(後編)

2020年の春にスタートした養蜂事業。
メンバー3人のこれまでの経歴、養蜂事業に参画した経緯を前編では伺ってきました。
後編では2年間の奮闘から更に未来を描き、また西粟倉での養蜂事業の意味を探っていきます。

メンバー3人と代表の牧、CQO(Chief Question Officer)佐藤も問いかけつつ座談会は続きます。

(前編はコチラ

 

養蜂チームのこれから

牧:こうちゃんはこれからどうなっていきたいですか。

講神:森さんに違うことをやってみようってよっぽど言われない限り、誰からか止められるまでは、蜂の世話を一生懸命やっていきたいとは思っています。そうしてしっかり「養蜂家です」と名乗れるようになっていきたいです。

佐藤:この2年くらい実際に蜂と、命と向き合ってみてどうですか?

講神:僕は、蜂の世話そのものをすることで幸せを感じるわけじゃないんですよね。お世話って刺されたりもするし、暑かったりしんどいです。でも頑張って世話をした結果、蜂がどうなるのかっていうのを見届けられるのが、自分にとって何よりの幸せだと思います。世話をしたら大きくなった、成長した、子どもを産んだって。そういう過程を得られるっていうのが僕の楽しみです。

命そのものをどう感じているかとか、たいそうなことは言えないんですけど、西洋蜜蜂っていう生き物に対して、人間である僕がいかに、ちゃんとお世話できるか、本当にそれだけの気持ちです。蜂がいて世話をして、蜂蜜が得られたらそれを今度ひとみさんが瓶詰にしてくれたり。そういう過程でちゃんと向き合いたいです。向き合っているつもりではいるんですけど、やっぱりまだまだやることはいっぱいあるかな。

牧:ひとみさんはどうですか?

ひとみ:私は“7世代先を考えよう”というインディアンの言葉が好きで、子どもとか孫とかずっとその先の世界の環境負荷になるものは残したくないし、何を残したら良いかをずっと考えています。
それで残したい風景は「ミツバチがぶんぶん飛んでいて、針葉樹も広葉樹も色々な木があって、花もいっぱい咲いていて、実りが豊かな土地」のことだろうなって思っていて。そういう土地で、森と人とがつながって生きていけたらいいなと思っています。その為のアクションを少しでもやっていけたらいいなと思っているんですよね。

まだ全然できていないですけど、種をまいたり、花の木を植えたりとか。山の土地の所有権のことや維持管理を考えると簡単ではないですが、山を買えたら良いね、とか皆でよく言っています。蜂にとっての楽園が作れたらいいなとも思います。

佐藤:良いですね。

ひとみ:今までの歴代の養蜂家はこの地域には全然来てなくてなくてノーマークの場所だったんですよ。
それはつまり花が少なくて、養蜂業として成り立つほどではないということです。養蜂家にとってはあまり魅力がないのかもしれないけど、豊かな森を作っていこうとする地域だからこそ、きっとできることがいっぱいあるんじゃないかなと思っています。
今採れる蜂蜜の量は、いま咲いている花の量が上限なので、もっと種を撒いて育てていきたいです。トチノキから蜜を採ろうとすると、今種を蒔いても40年後とかで私はヨボヨボですけど、「今やっておかないとな」っていう気持ちはあります。

牧:森さんはどうですか?

森:今年の僕のテーマの1つが“偶然性を楽しむ”なんですね。
文化人類学の概念で“ブリコラージュ”と“エンジニアリング”というのがあるんですね。それに例えると、“エンジニアリング”というのは、車や家を作るようなイメージ。設計図を描いて、その通りになるようにピースをはめていって完璧なものを作っていく方法のことを言います。ブリコラージュは、その逆。ある場所に行ってみて、そこに「すでにあるもの」を探して、それを組み合わせることで何かを作っていく方法のことを言います。

僕の前職は、どっちかっていうとエンジニアリングの世界だったんですね。でも、それって自分の想像した以上にはならならないんですよね。。それに、あまり楽しくなかった。だから今は、その場所に行って、あるものを組み合わせて、サーフィンのように波を乗りこなしながら「気付いたらこんな場所まで来てた!」みたいなことができたらいいなっていう風に思ってます。
なので、事業にしろビジョンにしろ、頭の中にあるアイデアはみんなに伝えるんだけど、それを忠実に実現しようとは思っていないんです。それに対して「もっとこういう見方もあるんじゃない?」ってポンと出てきた何かに乗っかって、ポンポンと飛び石を渡るように進んでいく、みたいなことをやっていきたくて。今は、それが結構できているので、僕は割と充実していますね。

※ブリコラージュ(bricolage)・・文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースが1962年に発表した『野生の思考』で取り上げた概念

今は蜂蜜のブランディングの真っ最中です。ブランド名は「Reml Behn(リムル・ベーン)」としています。ドイツ人の「リムル・ベーンさん」という架空の人物を描いて、その人が、あたかも西粟倉で暮らしているような世界観をつくっていっています。「Reml Behn」というのは「Rewrite the Missing Link Between Human and Nature(自然と人の、失われた関係を取り戻すために)」という言葉の頭文字を取ったものになっていて、僕らの事業が目指す目的地をあらわしています。その暮らしを絵本にして、蜂蜜と一緒にしたギフトセットも、今作っています。

それで、このブランドの方針がどうやって決まったかっていうのが、まさにブリコラージュだったんですよね。ブランドづくりはチームでしたいと思っていたので、前職でやっていたワークショップをやってみたんですよ。「世の中のブランド会社でいうと、どんな会社みたいになりたいか?」みたいな。そうすると講神くんは「いやー…どうすかねー…えー…っと、スターバックスですかね?…」みたいになる(笑)。このやり方じゃないなと思って、じゃあブランド像っていうものを人で例えるとどうだろうねみたいな話をしたら、割とイメージが出てきたので。それを人物像として作り込んでいきました。

あと最初は蜂蜜をそのまま売っていくのかと思っていたんですが、利益を考えると蜂蜜の生産、販売だけじゃダメだ、じゃぁ蜂蜜も仕入れてお菓子作りとかもしていこうとなって、今グラノーラの商品ができました。
気がついたら結局、お菓子作りもできてるじゃんみたいな話になっているんですけど(笑)。
こうしたブリコラージュ的な動きをどんどん起こしていけたらいいなと思っています。

 ひとみ:グラノーラは2種類あります。

森:商品名は「ノラノーラ」と言います。 Mike(ミケ)とKuro(クロ)の2種類です。
「ノラ」は猫もイメージしますけど、野の良いものって書いて「野良」なので中身は全部オーガニックか国産の素材だけを使っています。これも、パッケージの表も描かれているネズミと猫の物語を作って絵本にすることを進めています。

養蜂業を通じて実現したいこと

牧:西粟倉における養蜂っていうテーマで、もう少し話を聞かせてください。
村では日本蜜蜂をやっている人たちも居られて、その方々とも話し合いを重ねながらやってきていると思いますが、ここで養蜂を事業としてやろうっていう人はいない場所だから縄張りが空いていたわけですよね。
今、蜂蜜がたくさん採れる場所は必ずと言っていいほど誰かの縄張りになっているものなので新規参入する場合は誰かの縄張りをもらうか、縄張りの設定すらされていないところに行くかっていうところでいくと、西粟倉の場合は後者なんですよね。
あえてこの場所で蜂蜜を作る、作り続けていくっていうのはどういうことなんだろう、そこに見出している意味とかあれば聞きたいです。

森:いわゆる世の中でいう「美味しい蜂蜜」を採ろうとすると、一面のお花畑を作るのが正解なんですね。でも僕らは、別にそれをやりたいわけじゃない。また、量を採りたいっていうなら日本全国移動しながらいい蜜源を回る移動養蜂が良いけれど、それも別にやりたいわけじゃない。じゃぁ西粟倉でやりたいのは何かという話は皆でずっとしています。

チームみんなで共通しているのが森を作っていきたいとか、自然の多様性をもっと高めていきたいみたいなことなんですよね。だから、僕らは「やればやるほど森が豊かになっていく養蜂」を目指しています。それを養蜂のキャッチコピーとして『森から生まれ森を産み出す自然蜂蜜』という言葉にしています。

僕たちは今年から「年間売上の5%を森づくりに投資する」ことを決めました。
収益の一部を森づくりに投資をしていくことで、やればやるほど森が回復して豊かになっていくっていう事をやっていきたいなと考えています。

牧:山や森の花々から蜂蜜が採れ、それが売れた利益で森に投資していく為に事業としてはどれくらい稼ぎたいですか。

森:そうですね。蜂蜜売りだけで2000万円、今やっているギフト領域を狙って仕入れ・加工・販売等を合わせて5000万円、上手くやって合計1億円みたいなところは狙いたいですね。
売上が1億円に達して、その5%を森づくりに使えたら年間500万円を森づくりに使うことができる。
でもインパクトがあるのは10億円くらいの売上があって、5000万円を森への投資に使えている状態かと思います。
ただ、10億円の事業を目指すビジョンや戦略は正直、今の僕にはまだないです。それは、これからチームメンバーと一緒に描いていきたいです。

佐藤:数字(売上や利益のこと)だけが目標になっていると、数字が寂しくなるとエネルギーも落ちてしまう。それなら数字目標は作らないほうがいいけど、今みたいにビジョンがあるなら数字を持っているほうがエネルギーも上がるし実現していけると思うんですよね。

牧:売上より「これくらい森に投資したいから」と考えた方がいいんでしょうね。どれくらいの森づくりを何年後くらいにできるといいなとかを考えて、それができるようにしようと思ったら、5億あったらどうだろう、やっぱり10億以上いるなとか。

佐藤:毎年少額でもキャッシュフローが生まれてくるっていうのは、森にとっては素敵なことだよね。BS※に変換できるっていうのは、人だからできることで、森のBSにつぎ込んでいって次の世代、7世代先に乗せていくっていう。命の使い方として、活動として素敵だと思うよ。

※BS=Balance Sheet(貸借対照表)は、「資産」・「負債」・「純資産」の3要素で構成されたもの。資産=負債+純資産で表されている。

ひとみ:でも3人だけではできない気がします…。

佐藤:仲間は増えるよ、イメージが出来れば増える。大丈夫。

牧:蜂蜜を売って1000万円だとしても、ただただ咲いていたその花から1000万円。今まで西粟倉といえば林業!木材!だったのが山には花が咲いていてそこから生み出された価値があるんだよって、それ自体すごく素晴らしいことだなと思います。
まだ2年、これから3年目だけど500万くらいの赤字はいいんじゃないって思います。もちろんずっと赤字でも困るんですけど、利益を上げていこうと思ったら投資もいるので。最初から黒字になることなんてないし、息の長い勝負だと思います。

佐藤:今日現場を見て気になったんだけど、冬越しで3分の2は死んでしまっていて、3分の1はどうして生き残ったの?

森:冬越しをするときに、巣箱の中の蜂の数をなるべく平均化します。それでもちょっと多めに居た巣箱があって、そこが生き残った感じです。

講神:あとは蜂の寿命も関係していそうです。若い蜂がやはり残っていると思います。

佐藤:個体の問題じゃなくて、やっぱり数の問題だったっていうこと?

森:きっと色んな原因があるんですけど冬越しの失敗というところに関する一番の要因は、1箱当たりの数だと思います。

講神:ダニだったり、巣箱の問題っていうのはあったかもしれません。

ひとみ:冬の手前にやった策が失敗じゃなくて、半年以上遡って春に出来てないことがあったかもしれないし、夏に薬の量がちょっと足りなかったかもしれないし、秋の餌不足だったかもしれないし…。何個も何個もやってきたことの繋がりがあっての今の状況なので、はっきりとこれが良くなかったと言い切れないのですが。

牧: 1年で1サイクルやっと回せるビジネスだから、越冬した結果は結局1年の過ごし方のプロセスが細かく関わります。無数の変数があって、何がどう効いたかを検証してそれをまた次に活かしていくっていう。難しいけど、だからこそ興味深いです。
先輩たちの話を聞かせてもらうっていうことで、ちょっとショートカットできるんだけど、でもやっぱり自分たちで手を動かさないと分からないことも多いので。

森:今年の冬越しは冬越してすぐ開けた時点では死んでいたのは1,2割でした。その割合は多くの養蜂家の方もそれくらいだと聞いて一安心したのですが、その後に多く死んでしまっていて。そういう蜂たちは、長く養蜂をやっている先輩方がお世話をしていたら、生き残っていたのかもしれない。

講神:蜂が減るのを止められなかったのが、寒さなのか、寿命なのか。仮説をしっかりと立てて考えつつ、いま出来ることをしていきたいです。

森:理由は複合的だと思うんですけど。仮説を持ちながら1つずつ改善していきたいです。

講神:10年くらいはかかりそうですよね。

牧:この土地での養蜂業を成り立たせるためには、養蜂技術や気候や病気への対応力の向上があると思う。それとあとこの土地に合った蜂に時間をかけてなっていくプロセスもあるかもしれない。
このチームが経験していくことがずっと蓄積されていくっていうこと自体に、とっても大きな意味がある気がしています。どうなっていくか、どういう事業になるのかまだまだ分からないけど、粘り強く続けていってほしいなと思います。

森・講神・ひとみ:はい、頑張ります。

 

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