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「林業って楽しいんだ!」。北海道大学・森林研究会のメンバーが、厚真町の林業家に見つけた魅力。

授業で習う林業は課題が多くて、あまり先がないイメージ。でも、実際にはそんなこと全然なかった。北海道大学・森林研究会のメンバーが、厚真町の林業家と出会って、実際の現場で見て、感じて、学んだこと。

頭で考えずに、全身で感じる。理屈よりもまずはやってみる、そしてなんとかする。答えはなくていい。目の前のことをしっかり楽しむ。

会発足の「言い出しっぺ」の伊藤さんを中心に、4人のメンバーに「厚真町の林業の魅力」について話を聞きました。

 

【インタビューに参加した森林研究会メンバー】
伊藤悠希、北大農学部森林科学科3年(20歳)
本郷悠夏、北海道大学農学部森林科学科2年(21歳)
岩間雄介、北海道大学工学院空間性能システム専攻 博士後期課程2年(43歳)
中橋穂乃香、北海道大学農学部森林科学科4年(22歳)

 

「まずは森を楽しむ」、北海道大学森林研究会の活動方針

―森林研究会の設立経緯を教えてください。

(伊藤)僕と安齋暢仁さん(北海道大学農学院)、佐藤百栞さん(現在、九州大学農学研究院)の3人が言い出しっぺです。

2019年に、僕が西埜さん(西埜将世さん、厚真町の林業家)のところに泊まり込みで、10日間ほど仕事の手伝いをさせてもらっていました。そこに偶然、佐藤さんが西埜さんを訪ねてきたんです。

「大学の中だけじゃなく、こういう現場に来るのも大事だよね」と話がはずみました。その縁で、同じような考えを持っていた安齋さんともつながり、「団体を作りたいね」という話になりました。

林業は社会問題として取り上げられる機会も多いし、きっと学生の中にはこの問題に興味があって、関わりたい人もいるだろう。そういう人たちとチームができたら面白いだろうなと思っていました。

 

 

植林作業を行う伊藤さん(中央)と中橋さん(右)

―伊藤さんが厚真町を知ったのは、どういう経緯ですか?

(伊藤)もともと林業には興味があり、高校生のときに「岡山県西粟倉村の林業が盛り上がっているぞ」というニュースを見て、実際に訪ねてみました。そこで話を聞かせてもらう中で、「北海道厚真町でも似たようなことしてるよ」と教わりました。そこで北大に入った後、厚真町に行ってみようと思い、エーゼロ厚真の方と連絡を取ったところ「厚真林業ツアー」を企画してくれました。

そのときに西埜さんや中川さん(中川貴之さん、厚真町の林業家)と出会いました。西埜さんが「また、いつ来てもいいよー」と言ってくれたので、「じゃあ、行ってみよう」と手伝いに行きました。

 

―他のメンバーの皆さんも、林業に何か課題感を持って入会したのですか?

本郷)林業に課題意識を持ったのは森林研究会に入ってからです。それまでは、自然環境や森に漠然と興味があって「森と人をつなげたい!」とか思っていました。

 

(岩間)木造建築が好きで、川上側の林業にも興味を持ちました。林業は課題が多いと耳にするけど、自分は何も知らない。だから、もっと実際の現場を知りたいと思いました。

 

(中橋)実家で森を所有していたので自分で管理ができたらいいなと思い、今の学科に入りました。同じ学科の人がここに入っていたので「なんとなく」で入会しました。

 

―設立後、活動方針や具体的な活動内容はすぐに決まりましたか?

(伊藤)森林好きな人が集まればいいかなくらいで、具体的なことは決まっていませんでした。森のことを知らないから、みんなで集まり勉強して、情報発信すればいいかなとか、あいまいなイメージしかなかったです。

だから、会の目的やどういう活動をすればいいか?ということを決めるのにすごく悩みました。

林業には課題があるから「なんとかしなくちゃいけない」。だから「森のために、林業のために」から逆算して活動内容を考えるけど、「これで行こう!」とはならなくて……。参加する人はなんとなく増えるんですけど、活動は何も始まらなかったです。

 

―それは苦しいですね。そこからどうしたのですか?

(伊藤)考え方を変えました。「まずは楽しいこと」から考えようと。森をいかに楽しむか?森を楽しむことができたなら、それは「森から価値を引きだしている」ということだろうと。

この考え方で突き進んだ先で、見つけた楽しみを共有していけばいい。

そう思えてからは、目の前にあることを最大限楽しんでいけばいい、という活動の形に自然となっていきました。

 

厚真町での50日が、僕の森林体験を大きく変えた。

―厚真町での活動をもう少し聞かせてください。

(伊藤)最初に西埜さんのやっている現場に入らせてもらいました。そのときに「どの木にする?」と伐る木を選ばせてくれたんです。

 

本格的な林業作業を手伝う様子

どの木を伐るかなんて、それって一番大事なところじゃないの?と驚きました。でも、本当にやらせてもらえるから、自分たちなりに一生懸命考えて選び、チェーンソーで倒すところまでやりました。作業スピードは相当遅かったと思うけど、任せてもらえました。

厚真町役場の宮さんに「チェーンソー講習会をやりたい」と伝えたときには、すぐに林業機械化協会の方を講師として呼んでくれました。おかげで僕らは今、7人がチェーンソー安全講習を受講済みです。春にはメンバー7人で植林もしました。

厚真町でたくさんの「関わりしろ」を得ることができ、行く回数が増えていきました。(※編集部注 「関わりしろ」は「関わり方および関わるための機会」のこと。のりしろが紙を張り合わせる際の余白部分であるように、関わるための余白のこと)

そして、個人的な動きにはなるのですが、中川さんのところに手伝いに行ったタイミングとコロナウイルスの影響拡大が重なって、大学のキャンパスに行くことができなくなったんです。それで、結局厚真に50日くらい滞在することになったんです。

 

―50日はすごいですね。

(伊藤)はい。この期間を通じて、「樹の名前」を覚えました。たかが樹の名前なんですけど、これが僕個人にとっても、森林研究会の活動にとっても大きかったです。

中川さんのところでは、製材されて材の状態になった樹の名前を、厚真町で森づくりを50年している本田さんのところでは、立木の状態で樹の名前を教えてもらいました。

大学の授業では樹木の冬芽とか葉を詳細に観て、少し堅苦しく定義し樹木を分類するのですが、本田さんのところでは、枝ぶりとか葉のつき方を見て、もっと感覚的に見分けるんです。

習得まで時間がかかるんですけど、それができるようになると、森をぱっとみてその感覚のまま森を受け入れられるようになります。森の中で認識できる景色が変わり、森林体験もすごく変化するんです。僕はこの厚真での50日の前と後で、森がはるかに楽しくなりました。

 

森歩きの様子。目的を持たずに森に入り、目の前の樹木の名前を言い続ける。

その楽しさをみんなのところに持ち帰って、目的を持たずに森に入り「この樹は何?あの樹は何?」とひたすら目の前にある樹を見分けながら歩く、「森林研究会の森歩きスタイル」ができあがっていきました。

 

「模索し続ける」、厚真町の林業家から学んだこと

―厚真町と皆さんの関係が見えてきました。特に関わりが深いのが西埜さんと中川さんかと思うのですが、この二人の人柄や印象を教えてください。西埜さんはいかがですか?

 

西埜さんのパートナー、馬の「カップ」君とともに

(本郷)人柄としては、本当に明るく楽しくて人を惹きつけ、人を巻き込む力がある人という印象です。加えて、「できるかできないか」じゃなくて、「まずはやってみる」という考え方、取り組み方が衝撃でした。

 

(岩間)西埜さんというか、奥さんとお子さん2人と馬2頭と犬が1匹、さらには一緒に働いている渡部さんとお子さんも含めた、西埜一家とその周辺にある光景に胸をわしづかみにされました。うまく言語化はできないんですが、すっかりとりこになりました。

 

(中橋)儲かるか儲からないかじゃない、自分が惹かれる方向にまっすぐ進んでいく、そんな生き方があるんだなと思いました。どこに行っても人を笑顔にさせる。気を遣わずして気を遣える人だなと感じています。

 

(岩間)馬搬というのは、すっかり廃れていたのに、西埜さんがそれをあえてやったことでこうやって輪が広がってきている。それは本当にすごいことをやってるんだなと思っています。

 

厚真町で林業を営む西埜将世さん(左)と奥様の朋子さん(右)

(伊藤)林業の現場で標準的な方法ってあるにはあると思うですけど、現場はそううまくいかない。そんな状況の中でもなんとかしてしまう。そんな「なんとかする力」を学ばせてくれました。

そして確定的に答えを言うのではなく、「自分で考えることを促す話し方」なので、自ずと自分なりに考えて行動することになります。そうすると、指示する側とされる側、作業をお願いする側とされる側、といった関係にならず、ちゃんと自分が自分でやれている感じがします。そういう対等な関係なので、他の人も安心して連れていきやすいなと感じています。

 

-ありがとうございます。続いて中川さんの印象はいかがですか

(本郷)すごく親身になってくれます。植林の現場でご一緒したのですが、私はまったくの初心者だし「素人が植林なんかしちゃダメだろ」と思っていました。でも「それでいいんだよ」と言ってくれて、めちゃくちゃ丁寧に植林の仕方を教えてくれました。

そして苗木を植えながら、実際の森を見ながら林業の課題も話してくれました。

 

(岩間)「求道者」的なかっこよさがあると思います。そして西埜さんとの共通点としては、中川さんのところも「家族が素晴らしい」です。特にそれぞれの奥様を見ていると、「内助の功」では片づけられない貢献度の大きさというか、存在の大きさが本当にすごいなと思います。

 

(中橋)私に林業を教えてくれた人です。最初に作業をさせてもらったときに、自分の知っている林業が全部変わりました。

職人気質なところがあるのと、情熱をもって語ってくれます。その話を聞く時間がとってもいい時間で、とても楽しいです。過去の仕事の中で林業の暗い部分も見てきているはずなのに、今、希望を持てていること、希望をもって仕事をしていることが、本当にすごいなと思っています。

 

メンバーからは「職人気質」と評される中川貴之さん

(伊藤)中川さんはずっと林業をやってきて、そのあと製材業もやっているから、森から人間社会への木のつながりが見えていると思います。林業と製材業、それぞれの目線からの話をしてもらうことで、僕自身が新しい視点を得られました。

中川さんのやっている林業はとても小規模で、メインストリームの林業はもっと大規模だし、生産効率も違うと教えてくれました。「じゃあ、そこでこぼれていくものは何だろうね?」といった問いかけがあったりして、深く考えるきっかけも与えてくれます。

 

-厚真町の「人」ではなく、「厚真町としての林業の魅力」を言葉にできますか?

(伊藤)そこは結局「人」に還元されちゃいます(笑)。林業という業について答えようとしても「あの人がこんな林業をやっている」という、人の話になります。

 

(岩間)メインストリームの林業がダメというわけじゃないんですが、何かもっと他のやり方はないか?と模索している感じがすごくかっこいいなと思いますし、魅力だと思います。

 

(伊藤)模索中というのはすごくあると思います。何か確定しているわけでも、確定できるわけでもなく模索中。だから、学生という立場でも一緒に考えながらできて、関わりやすいのかもしれません。

 

(本郷)私はとにかく「本当に大丈夫?」って思ってしまうくらい、現場が楽しいところが魅力です。

 

(岩間)林業現場に子どもがいて、笑顔があって、笑いがあるなんて思ってもみなかったです。

 

試行錯誤を繰り返しながらも、楽しく笑顔のある林業の現場

(中橋)林業は課題だらけで解決策もないと習っていたけど、厚真町でみた林業は全然違っていた。楽しく林業をすることが可能なんだと知ることができました。

 

-それでは最後にあらためて、今後の森林研究会をどうしていこうと考えていますか?

(伊藤)全くないです(笑)。そういうことは考えなくていいのかなあ、なんて。出会ったものを最大限活かし、そのときどきで深掘りすればいい。

これからどんなことに出会うんだろう。目的を持たずにただ森に入って、目の前の樹をただ見ていく感覚に似ています。頭の中だけで考えていたことが崩れるのを、何度も体験したから、まずは出会ってから、まずは触ってからが本番だよね、と思うようになりました。

「どうしていきたいか」はないですけど、どうしたら面白い出会いが増えるか?はいつも考えます。その点で、厚真町は「関わりしろ」だけでなく「広がりしろ」があって、未来が開けていくのを感じています。

 

-本日はどうもありがとうございました。これからも厚真町で楽しんでくださいね。

みんなで植えた苗木の様子。新しい未来が開けていく。

 

本記事に出てきた西埜さん、中川さんは「厚真町ローカルベンチャースクール」を経て、厚真町で地域おこし協力隊として活動を開始し、起業しました。

 

厚真町では今年度も地域おこし協力隊を募集しています。締切は10月18日です。

厚真町には林業以外にもさまざま余白「ビジネスしろ」があります。自らのチャレンジが仲間を呼び、次の世代にも影響を与えていく。西埜さんや中川さんのように、そんな一歩を厚真町で踏み出してみませんか?

 

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