北海道

厚真町

あつまちょう

胆振東部地震で行き場を失ったペットたち。私が無償で預かります!

「被災動物受け入れています」。

北海道胆振東部地震発生から3時間後の朝6時。厚真スポーツセンターの壁に1枚の紙が貼り出されました。貼り紙の主は、町内で「ペットホテルHAYA」を営む早川律子さんです。

早川さんは震災当日から被災したペットの無償預かりを自発的に開始し、飼い主の仮設入居が決まる12月9日まで受け入れを続けました。お世話になった飼い主や、災害ボランティアで厚真町に入った動物愛護団体の方々は口々にこう言います。「厚真町にHAYAさんがいてくれてよかった」。

 

ペット、預かります。

「ヤバいことになる」。地震の日の早朝。「HAYA」こと早川律子さんが、町内に避難所が開設されると聞いて真っ先に考えたのは動物たちのことでした。「着の身着のまま大勢の町民が集まる避難所に犬や猫たちを連れてはいかれないだろう。それなら可能な限りうちで引き受けよう」。思うが早いか早川さんは、町役場を通じてすべての避難所に手書きの紙を貼り出しました。

 

被災動物受け入れています。

錦町5-5 ペットホテルHAYA

 

その日、町役場などからの要請で「ペットショップHAYA」に持ち込まれたペットは3匹。けれども被害状況から考えて「こんなはずはない」と早川さんは思いました。

貼り紙では気づかなかった人もいるだろう。知っていても遠慮している飼い主がいるかもしれない。そこでLINEのタイムラインに情報を流したところ、翌日は早川さんのもとを訪れる被災者が相次ぎ、受け入れ頭数は一気に20匹に膨れあがります。「みんな困っていたんです。でも、どうしたらいいのか分からない。この状況がいつまで続くのかも見通しが立たない。だけど、安否不明の人もいる状況下で自分だけペットのことで迷惑はかけられないと思った人がたくさんいたのでしょう。中には避難所にペットは連れて行けないから車中泊を選択した飼い主もいました。だから私は飼い主さんに『この子(ペット)のために遠慮していたら何も行動が起こせないよ。ペットのことは私に任せて、まずは自分たちのことを考えて。生活が落ち着いてから迎えに来たらいいんだから』と伝え、犬や猫たちを引き取りました」。

 

大所帯となった「ペットホテルHAYA」の存在を知り、多くのボランティアがそのフォローに駆けつけました。「避難所であの貼り紙を見つけたときに泣きました。地震からわずか3時間であれを貼った人が厚真町にいるんだって。彼女自身も被災しているのに、自分のことは後回しにして立ち上がったんだから」。震災直後から厚真町に駆けつけたある動物愛護ボランティアの方は、早川さんへの賛辞を惜しみません。

 

発災から日を追うごとに、預かるペットの数は増えていきました。車中泊を続けていた人がペットの預かりを希望したり、倒壊家屋や土砂崩れ現場から保護された動物たちの一部も早川さんのところにやってきました。収容されたペットの数は最大で犬18匹、猫19匹にのぼりました。

「ペットホテルHAYA」。ピーク時には37匹のペットたちを預かりました

 

地震から数日経つと「いつになったら営業再開するの?」といった問合せの電話が入ってくるようになりました。しかし、店には預かった犬や猫たちがあふれかえっていたため、とても営業どころではありません。この状態が長引けば常連客は遠のくだろう、いつまで無収入のまま暮らしていけるだろうか。不安な要素を数え上げればキリがありません。それでも早川さんは「店がつぶれてもいい」と腹を決めていました。「うちがここで営業をさせてもらっているのは厚真町のみんなのおかげ。だから今度はうちがみんなのためにやらなくちゃいけない番なんです。この活動をやらないで店が続いていくぐらいなら、やってつぶれた方がいい。そういう覚悟でした」。

 

手弁当で活動を続ける早川さんを応援しようと、常連客を含むたくさんの方から支援金が寄せられました。また、ペットを預けた飼い主の中には謝礼を置いていく人も少なくありませんでした。

厚真町も被災したペットへの対応に関して早川さんとの連携を強化するため災害協定を結びました。

「ペットホテルHAYA」の壁には、飼い主の感謝の手紙が貼られていました

声にならない声を伝える仕事。

それにしても、早川さんとはどんな人なのでしょうか。

教員の家庭に生まれた早川さんは、物心ついたときから大の動物好きでした。ところが住んでいたのはペットが飼えない教員住宅。そんなわけで、子どもの頃は親に内緒で野良猫を連れ帰ったことも一度ならずあったそう。

ペットが飼えないという制約は、反対に動物に対する興味をどんどん膨らませることとなります。早川さんの本棚にはいつしか動物の図鑑や飼い方、病気に関する本が増えていきました。気がつけば、友だちが飼っているペットを見て、「目やにが出てるから」と処置の仕方をアドバイスするほど、誰よりも犬や猫に詳しくなっていたそうです。

大人になり、親元を離れてからは、念願かなって犬を飼うことができるようになりました。さらには保護犬の里親を買って出たり、ときには友だちの家の犬をボランティアで預かることも。あるとき札幌のペットショップでスタッフを募集しているのを見つけ、「ペットショップは大嫌いだったけど(笑)」、業界を知るには内側からと思い、勤めることにしました。すぐに辞めるつもりでしたが、1年半で店長に抜てきされ、気がつけば9年間も勤務することに。最終的には経営まで任されるようになっていました。

けれどもストレスが重なって体調を崩し、ペットショップを退職します。

 

病気療養のために身を寄せた先は、両親が住む厚真町でした。

実は25年前に両親が厚真町に家を構えたため、これを機に厚真町は早川さんにとって、実家のある「ふるさと」になったのです。とはいえ当時の早川さんに「ふるさと」への愛着があったといえばウソになります。実際、体調が回復したら、厚真町を出てどこか別のまちで働こうぐらいに考えていました。

その後、両親の勧めで厚真スポーツセンターの臨時職員になるわけですが、ここでの出会いが早川さんの人生を変えます。

スポーツセンターで一緒に働くスタッフの中に、犬好きの清掃員さんがいました。すぐに意気投合し、飼い犬を招いてシャンプーしてあげたり、数日間ボランティアで預かったりするようになりました。すると「これを仕事にしたらどう?」と思わぬ提案を受けた早川さん。当初は「厚真町でペットホテルは無理でしょ」などと後ろ向きでしたが、動物に寄り添う仕事をするのが昔からの夢。だんだんと夢は膨らんで形を帯びていき、ついには起業を決意します。開業資金はわずかでしたが、町の商工業経営強化促進補助金を活用して2015年8月に「ペットホテルHAYA」をオープンしました。

「ペットホテルHAYA」の店内で取材に応じる早川さん

 

オープン当初こそ売上が伸びず苦労したものの、早川さんのペットホテルの情報は口コミで広まり、町内はもとより、穂別(むかわ町)や早来(安平町)、苫小牧など、近隣のまちからもお客さんが来るようになりました。特に話題を呼んだのがシャンプーです。炭酸泉を用いた自然派シャンプーによる施術は、皮膚ケアに効果的と評判を呼び、ペットの皮膚病で悩んでいた飼い主が集まり始めました。一匹一匹の状態に合わせ、時間をかけて丁寧にシャンプーするのが早川さんの施術スタイル。その手にかかれば、あまりの気持ちよさに「9割の子がウトウトしちゃう」そうです。

また預かり(ペットホテル)の方も、小さなゲージに閉じ込めるのではなく、少しでもストレスを感じないよう一匹ずつ十分なスペースを確保しています。夜中も早川さんが常駐してトラブルに備え、さびしがり屋のペットには添い寝までしてあげるそう。

開業から3年を経て、今や夏の繁忙期には予約を取るのも難しいほどの人気です。

 

「ペットの側からすれば、なくてもいい商売なんです」という早川さん。「飼い主さんといつも一緒にいたいから本当はホテルになんて預けてほしくないし、シャンプーだって飼い主さんにやってもらいたいはず。でも、飼い主さんの側からすればそういうわけにもいかない事情があります。私の役割は、その子たち(ペット)の代わりに飼い主さんに声にならない声を伝えること。それによって、少しでも飼い主さんとペットの間の行き違いがなくなってくれたらいい。そう願っています」。今回地震を経験し、その「役割」をさらに強く意識するようになったと早川さんはいいます。

 

動物にやさしいまちへ。

地震発生から約3カ月後の12月9日、「ペットホテルHAYA」の無償預かりは終了しました。早川さんが預かった合計44匹の動物たちは飼い主やその家族のもとに帰りました。倒壊家屋から保護された1匹の猫は、新たに早川さんの家族に仲間入りしました。「ペットショップHAYA」はかつての落ち着きを取り戻し、ペットにとっての「災害」は終息したかのように映ります。それでも「まだ終わっていない」と早川さんはいいます。

 

地震の被害によって離農した農家や酪農家の敷地に取り残された猫たちは100匹とも200匹ともいわれています。そのまま放置すれば猫は繁殖を繰り返し、どんどん数を増やしていくでしょう。数が増えれば新たな生活環境を求めて、山から住宅地へと下りてくるはずです。熊本でも地震後に市街地の猫が増えて問題になりました。

「一刻も早く取り組むべきは、そうした猫を捕獲して不妊手術をし、元の場所に戻す活動です」と早川さん。「これには行政との連携が必要不可欠。町役場とも連携して解決していきたい」と話します。

また、現在ペットとともに仮設住宅で暮らしている方々が、2年後に公営住宅等へ移るとなったときにペットはどうなるのかという問題もあります。町の施策が問われる難しい課題ですが、「飼い主さんが何とか一緒に過ごせるよう、前向きに検討してほしい」と期待を込めます。

土砂崩れ現場での動物救護活動は晴天であることが必須条件。「てるてる坊主」で晴天祈願

 

早川さんのお話を聞いて分かったのは、ペットのための災害対策は、飼い主ばかりではなく、地域に住むみんなにも関わるテーマだということ。災害が発生した場合、飼い主はどうしたらいいのか。行政・民間事業者・動物愛護ボランティア団体・獣医師会はどのように役割分担し、対応に当たったらよいのか。このたびの震災を糧にして対応方法を整備できれば、厚真町だけではなく、ほかの地域にも参考になる事例になると思いました。

 

早川さんの愛犬・くうたもん

 

早川さんはいま、店舗の移転準備を進めています。それは災害時に町役場と連携して避難動物たちの受け皿となるまったく新しいペットホテルをつくるため。収容頭数を増やし、外犬用の設備も新たに設置し、町民が無料で利用できるドッグランを備える計画です。ゆくゆくは動物病院を誘致し、常に獣医がいる環境にしたいと早川さんは語ります。

「実は今回の地震で、自分がどういう人間だったのかも分かりました。逃げなかったじゃん。ちゃんとやれたじゃん。私、やっぱり犬猫が好きだということが本当に分かりました。そして、自分が果たすべきべき役割、厚真町でこの仕事をする意味が明確になりました。役場の方々としっかり連携を深めながら、普段も、それから災害が起きたときでも、厚真町を日本でいちばん『動物にやさしいまち』にしていけたらなぁと思っています」。

 

地震をきっかけに、厚真町を日本一『動物にやさしいまち』に。

その夢、HAYAのあるまちなら叶いそうな気がします。

 

「厚真町にHAYAさんがいてくれてよかった!!これからも末永くよろしくお願いします」

ペットホテルHAYA
住所 北海道勇払郡厚真町錦町5-5
電話 0145-29-7207
営業時間 9:00~19:00
定休日 水曜日

メールマガジン

いきるが、ひろがる。Through Me Magazine をお届けします。