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園庭が変われば、子どもが変わり、大人も変わる。子どもも保育士も主役のこども園へ!【北海道厚真町こども園保育士募集】

厚真町の二つのこども園がいま、変わりつつあります。

共通しているのはどちらも園庭づくりに取り組んでいること。

そのキーマンが2園の園庭整備にアドバイザーとして参加する木村歩美さんです。

現在進行形で園庭整備を進める「宮の森こども園」の宮下葉子園長と、保育環境研究家で「おおぞら教育研究所」代表の木村歩美さんの二人にお話を聞きました。

 

安心なくして、挑戦は見守れない。

―まずは、どんないきさつで木村さんが厚真町のこども園の園庭整備に携わることになったのかを聞かせてください。

 

宮下:数年前にさかのぼりますが、保育士として働きながら子育て環境について学ぶ中で園庭整備のことを知りました。先進的な園庭整備を行う保育園の写真を見て、子どもたちのイキイキとした表情がとにかく素敵だったんです。うちの園の子どもたちも楽しく遊んでいるけれど、ここまでダイナミックな遊び方やのびのびした姿までは見ないよな。この差は一体なんだろう?そこから園庭整備や、その第一人者である木村歩美さんに興味が湧きました。初めてお目にかかったのは2016年だったと思います。札幌での研修に参加して木村さんの話を聞き、やっぱり私たちの目指す保育の方向性に近いと確信しました。

 

木村:そのあとすぐに厚真町教育委員会から連絡をもらってね。翌年から放課後児童クラブの園庭整備「厚真冒険の杜プロジェクト」に携わるようになりました(http://atsumamma.jp/challenger/kodomoforum/)。

その後、北海道胆振東部地震があり、子どもたちの成長を後押ししたいという思いをより確かなものにして、2020年から「こども園つみき」、「宮の森こども園」の園庭整備計画が始まったんです。

 

宮下さん。千葉県出身。自らの子育てを通じて子どもの面白さに目覚め、町内で保育士として11年間勤務。その後、町民福祉課を経て、2021年4月より「宮の森こども園」園長

 

 

2019年9月「あつま子ども未来フォーラム」でお話する木村さん。静岡県出身。公立小学校・幼稚園教諭、保育系専門学校講師などを経て独立。園庭整備をはじめ保育者の「やってみたい!」を応援する研修講師として全国の保育現場を飛び回る

 

 

―「宮の森こども園」ではどのような園庭整備を行っていますか?

 

宮下:木村さんと一級建築士の井上寿さん(こども環境アドバイザー)に来てもらって、ワークショップを重ねながら園庭を少しずつ変えています。最初のワークショップでは「いま何に困っているのか?」職員で意見を出し合いました。すると、園庭の中に「危険な場所が多い」と感じていたり、「禁止事項を事細かに設定するあまり子どもたちに窮屈な思いをさせているのでは?」と保育士自身が感じていることがわかりました。

ただそうした不安を抱えながらも、「なぜそうなのか?」まではわかりませんでした。そのときに木村さんから「遊具の構造に問題があるのでは?」とヒントをもらい、みんなで話し合いながら危険を一つひとつ取り除くことを始めました。

 

―たとえばどんなことですか?

 

宮下:すべり台の踏み板をある高さまで外したんです。

 

―え?難易度が高くなっていませんか?

 

宮下:そうなんです。公園にあるような一般的なすべり台は、ヨチヨチ歩きでも手と足を使って一番上まで登ることができます。けれどもその頃はまだしゃがんですべり下りる動きが不安定なので、見ている大人はハラハラします。

そもそも、すべり下りられない子が、てっぺんまで登れてしまう構造自体が危ないのです。

なので、私たちは高さ80cmより下の踏み板を取り外してしまいました。そうなると腕の力で這い上がれる子しかすべり台ができないので、保育者は安心して見ていられるようになります。こうした「危険を取り除く作業」をまずは進めています。

 

木村:少し補足しますね。これは、公園の遊具がすべて危ないという話ではないんです。公園は、親やおじいちゃん・おばあちゃんが子どもや孫を連れてきてコミュニケーションをとりながら遊んだり、見守ったりする状況を想定しています。一人や二人という少人数の子どもを一人の大人が見るイメージです。

一方で保育園では一人の保育士が複数の子どもを見ます。たとえば1歳児であれば、保育士一人に対する配置基準は子ども6人です。

どうですか?「1:6」の世界に「1:1」の遊具を置いたら大人側はしんどいですよね。

子どもはみんなチャレンジャーです。高い所があれば登りたい。でも禁止されているからできない。保育者は、チャレンジの先に子どもの能力獲得があるので本当はその“背中”を押してあげたい。だけど不安感が勝ってしまうからチャレンジさせられない。ダブルのジレンマです。これはお互いにとってあまり幸せな状況ではありません。

 

さまざまな遊具が並ぶ園庭

 

木村:先ほど葉子園長の話にもありましたが、僕らはワークショップで「園庭の困りごと」の棚卸をします。するといっぱい出てくるわけです。つまり保育士は、それだけ日々不安を抱えながら保育をやっているんです。かわいそうですよ、保育士が。

じゃあ何が必要か?安心です。安心なくして子どもの挑戦は見守れません。やってみたいという子どもの気持ちと、それを尊重したい大人の気持ち。双方の気持ちを生かすことが保育の質向上には重要です。

そして、できなくなるようにする反面、その子にとってがんばれば近い将来できるだろうレベルのものも設置します。「今の僕ならここまでできる」と肯定できる・今の自分も受け入れられる場があることが大事なんです。レベルがグラデーションになっていて、「今の僕はここ。でも、あのお兄ちゃんみたいにいつかあれに登りたい」と未来が見える。それを、物的・空間的に保証しつつ、大人の安心感を担保しながら整備していく、それを「宮の森こども園」が実践しようとしています。

 

 

子どもが変わり、大人も変わった。

―木村さんに伺います。理想的な遊具を配置しさえすれば、すべてうまくいくものでしょうか?それとも園庭を機能させるのに何か必要な要素があるのでしょうか?

 

木村:目的は遊具整備にあらず。環境整備はツールであって、大事なのは人です。園庭整備の本当の目的は、人が変わることです。

「細胞膜を溶かす」といったらいいのか、人と人の間にある壁を壊す作用が園庭整備にはあります。「同じ釜の飯を食う」という言葉があるように、みんなでいろんな話をして、手を動かして園庭をつくり、場合によっては一緒に食事をする。それにより信頼関係が生まれたり、対人関係における恐怖感が薄らいでいったりしてきます。それって、保育の現場ではめちゃめちゃ重要なんです。保育者同士がギスギスしていたらどんな遊具を作ったところで機能はしません。人的環境を整えることも園庭づくりの目的なんです。

 

―園庭整備が人を変え、人間関係を変えるということですが、宮下さん、それを実感するような場面はありますか?

 

宮下:そうですね。まず、子どもはみごとなまでに変化します。環境が変わった瞬間に「同じ子なの?」っていうぐらい姿が変わります。

普段は長時間座っていることが苦手な子が、高さ80cmの台に登りたくて30分も一心不乱にチャレンジしていました。その集中力。初めて登った瞬間の表情!登れるようになったその子は、今度は友達を応援し始めるんですね。

別のある子は自分が登れないことを悟って、他の子のために自らウマ(踏み台)になっていました。素敵ですよね。反応は一人ひとり違うけれど、イキイキとした姿があちこちで見られるようになっています。

 

誰が教えたわけでもないのに、友だちのために率先して手助けをする姿も

 

宮下:職員にも少しずつ変化が見え始めています。これまでは研修を企画すると、私たちは「提供する側」、保育士は「受ける側」という構図がだったのに、最近は自分たちから「こういう研修をしたい」と積極的に提案してくれるようになりました。子どもたちの変化を目のあたりにして、やってよかったという手応えを得て、こうした言葉に結びついているんじゃないかと思います。

 

 

保育士は楽しく、尊い仕事。

―木村さんに聞きます。どうして園庭が変わることで、子どもが変わるのでしょうか?

 

木村:子どもたちは目の前に木があれば登る。小川があれば飛び越える。石を持ったら投げる。木の実を見つけたら集める。これらはすべて人類が地球上で生き抜くためにやってきたことです。子どもは本能的にその能力を獲得しようとします。環境さえ整えば。

高い台があればよじ登る。築山を見つけたら駆け上がり、一本橋を恐る恐る渡る。面白いことに、そうした姿を見て大人は目を細めるんですよ。後世が、生き延びるための能力を獲得するのを肯定するわけです。

すべて自然のメカニズム。園庭整備が子どもの本能を発火させるスイッチになるんです。

 

園庭に設置された一本橋。踏み出す一歩が、未知なる自分へのチャレンジになる

 

宮下:先日こんなことがありました。地元の農家さんがハロウィーンだからと巨大なかぼちゃを譲ってくださいました。去年までは玄関に飾っていたんですが、ただの飾りにするのはありきたりだからと、園庭に置いておいたんです。

乗ったり、転がしたりして遊ぶのかと思いきや、なんと解体が始まった!子どもたちは中に何があるのか知りたくなったんでしょう。剣先スコップを持ち出して、みんなで固いかぼちゃをつついたり、ほじったり。最後には中にタネが入っていることを確認しました。

解体したかぼちゃですか?園庭の隅に置いておいたら、雨が降って水が溜まっていました。それを見た子どもたちが「中に金魚が住んでいるんだ」なんて言って、ときどきドロ団子の“エサ”を持っていっては水の中にポチャンと入れたりしています。

 

園庭におかれた巨大なかぼちゃ。絶賛、解体中。

 

木村:あのようなかぼちゃを必ずハロウィーンの飾りにしようなんていうのは大人の発想ですね。子どもは自由に考えて行動する。それを、大人が面白がれることが大事なんです。「宮の森こども園」は扉を開けましたね。

 

宮下:扉を開けてくれたのは子どもたちの姿だったと思います。

 

木村:子どもの姿に大人が反応できた。そこが重要です。変わりゆく子どもたちを見て、自分の汗が役に立っていることを確認し、保育者自身の自尊感情が高まる。園庭整備によって子どもが大人の良さも引き出す。保育は、そういう素敵な場なんです。子どもも主体、大人も主体。子どもも大人もハッピーになれる場なんですよ。

 

―保育の仕事はとても楽しそうですね。

 

木村:保育はめちゃめちゃ楽しいですよ。本当は。だけど、楽しさを知らずに辞めてしまう若い子が多いのは残念なことです。

 

宮下:楽しさに気づく前に、やらなければならないことが多すぎて押しつぶされてしまう。

 

木村:保育にかかわることは楽しいし、尊い仕事なんです。さっきのかぼちゃの話もそうだけど、人間が生きていくために必要な知恵や能力の獲得がまさに目の前で行われているわけですから。何かを教えるというレベルではなく、人間が育っていくという営みを、きちんと守っていこうというすごい仕事なんですよ。保育者自身がそのことに気づいてくれたらいいですね。

 

―厚真町では、現在、二つのこども園の保育士を募集しています。宮下さん、どんな方に応募してほしいですか?

 

宮下:私たちが目指すのは、自ら育つ力を大切にする保育です。そのチャレンジの一つが園庭整備であり、職員の意識改革だと思っています。一人ひとりの育ちをどれだけ保証してあげられるか。子どもたちの育ちを、いかに大人が応援してあげられるか。その思いを共有していただける方と一緒に働きたいですね。

 

―これから園庭はどうなっていくのでしょう?

 

宮下:ここに1枚の絵があります。子どもたちのこんな姿が見たい、あんな姿が見たいと保育士みんなで話し合い、一級建築士の井上さんに描いてもらいました。

 

みんなの夢を詰め込んだ「宮の森こども園」の園庭マップ。これが完成ではない。

 

木村:これは現時点の絵であって、最終形ではありません。今年(2021年)の夏に描いた絵は3年後には変わっているかもしれない。当然です。子どもの能力が変わるのと同時に、大人たちも子どもの見方や関わり方がどんどんアップデートしていきます。だから3年後には、今とは別の発想、別の未来予想図になっているはずです。

 

宮下:去年は考えられなかったことが今年、次々と起こっています。職員みんなの発想もどんどん変わっています。そこに新たな方が加わって、経験やアイデアをインストールできたら、想定外の面白いことがいっぱい出てくるはずです。そう考えるとワクワクしますよね。

 

 

こども園の様子はこちらをご覧ください
「挑戦は未来を作る」宮の森こども園
http://www.town.atsuma.lg.jp/miyanomori/

 

保育士の募集の詳細はこちらをご覧ください
保育士募集 厚真町ホームページ
http://www.town.atsuma.lg.jp/office/politics/human_resources/syokuin_bosyu/kodomoen/
http://www.town.atsuma.lg.jp/office/politics/human_resources/syokuin_bosyu/kodomoen-04/