北海道

厚真

あつま

地域活性のためには、まず役場の職員を活性化。北海道厚真町長が語る、人づくりへの想い

2016年、厚真町では町の新・開拓民を募集する起業支援プログラム「ローカルベンチャースクール」を開催します。厚真町を初めて訪問した時、最も印象的だったのは町役場の空気感でした。次々と新しいプロジェクトを起こす30代を中心とした若手職員たちと、彼らにチャンスを与え育てるベテラン職員たち。新しい何かがこの町に次々と生まれていく力強い熱量を厚真町に生み出す起点となっている人が、現・町長である宮坂尚市朗さんです。人を育てることに熱量を注いでいる厚真町役場と、町のこれからについて、宮坂町長の想いを伺いました。

 

役場の中で、枠を超えたプロジェクトが始まった

– 北海道では1869年(明治2年)に明治新政府によって開拓使が設置されて以降、本格的な開拓が始まったのが約150年前。それ以降、開拓民が土地を切り拓き、広大な農地や豊富な資源を活かして現在のような経済発展を遂げました。厚真町も例外ではなく、元・開拓民の家系が多く在住し、農業と林業を中心とした産業を大きく育ててきた町です。

そんな厚真町で、町長として活躍しているのが、宮坂尚市朗さん。役場に27年務めた後に選挙に出馬し、2008年から町長に。現在は3期目を務めています。そんな宮坂町長が取り組んできたことの1つが、「役場の中の人づくり」でした。

宮坂:私自身、厚真町で生まれ育ち、北海道民としては4代目にあたります。これから先、北海道がさらなる成長を遂げるためには、道民が北海道として独立を目指すくらいの“フロンティア精神”が大切ではないかと考えています。老若男女問わず、様々な方が挑戦しやすい空気感を整えることは、厚真町の将来にとって大事な取り組みです。

どこの役場もそうだと思いますが、昔は、厚真町役場も、新卒採用を主流としていました。ただ採用がうまくいかなかった年度などもあり、職員の年齢バランスが悪くなってしまった。中堅層や技術職が足りなくなってしまったのです。それを機に、中途採用の枠を積極的に広げてきました。民間の経験を持っている方や、優秀でやる気のある方々に巡り合えたら、と思ったのです。

– そうして中途採用枠の中堅職員が、厚真町役場の中に徐々に増えていきます。そんな中から生まれてきたのが、「プロジェクトチーム」という新しい活動でした。

宮坂:プロジェクトチームは、私が「これをやれ」と言ったわけではなく、若手職員たちが自然と集まり、自分たちで考えて始めた活動です。これまでに「あたらしいなみプロジェクト」と「上厚真市街地環境整備プロジェクト(以下、上厚真プロジェクト)」の、2つの動きがありました。
 


厚真町の南部にある「浜厚真」は北海道一のサーフスポットですが、職住分離の大規模工業基地にあり、地域の人口が減って、元気がなくなってきていたんです。一方でサーファーの方々がサーフィンを楽しみ、町に親しんでくださっている場所でもありました。そんな時、若手職員たちが「浜厚真=サーフスポット」を起爆剤に厚真町をPRしようと、部署を横断してプロジェクトチームを結成したんです。彼らは浜厚真の開発構想からシャワーやトイレ設置、道路舗装といった細かな整備まで企画し、提案を上げてきました。

私自身、町役場に長年勤めていましたが、そういった動きは初めてのことでした。「彼らに上からフタをするのではなく、自由に行動できるようにサポートすれば、新しい何かが生まれるんじゃないか」。そう考えて、自主活動ではなく、勤務時間中に「本来業務」として進めていけるよう、プロジェクトチームを行政上の組織として認め、辞令も交付することにしました。結果、今では浜厚真でのサーフィンをきっかけとして、厚真町に移住する方も増えてきていると思います。
 

若い職員に任せて、後ろから見守る

– 「やりたい」と手を挙げたチームが、部署を超えて、新規プロジェクトにあたる。民間だったらどこにでもある光景かもしれませんが、行政の中でのこうした動きは、全国的にも異例な取り組みです。

宮坂:「あたらしいなみプロジェクト」は、ここ15前くらいで入庁した、現在40代前半の役場職員が中心メンバーです。今では町役場の中心を担う人材となっています。続く2つ目の「上厚真プロジェクト」は、30代の職員たちから生まれました。
彼らの活動だけが理由ではないでしょうが、プロジェクトが生まれて以降は役場内に「やってみよう」と、挑戦する雰囲気がより一層生まれてきているように感じます。

– 「若い人に任せる」って、言うのは簡単だけれど、なかなか難しいことだと思います。町長という立場からすると、リスクや心配事も多かったのでは思いますが、どう乗り越えて行かれたのでしょうか。

宮坂:単に応援しているだけでなく、「自分たちにはひらめかないような、彼らの新しい発想を自分たちのものにしたい」という考えもありますよ(笑)。自分が若い頃を振り返ると、諸先輩方にも同じようにしてもらっていたと思います。我々が今までやってきたことで今が出来ていて、新しい人がその上にまた新しい道を切り拓いていくということではないでしょうか。

私たちも後ろでは手綱を握っていますし、「基本を押さえた上で枠を飛び出してほしい」ということは、職員たちにも伝えています。町役場の場合、法律や制度といった基本を知らないと、そこから飛び出してチャンスをものにするのは難しい。周囲に安心も信頼もしてもらえないものです。縁の下の力持ちでありつつ、自分たちの才能を眠らせることなく、町民と一緒に進んでいく努力が必要なんですよね。

– 若手職員と意見が食い違い、時にはぶつかることもあったそう。それでも最後には、「とりあえず頑張ってみなさい」と信じて、任せてきた宮坂町長。プロジェクトを行っていた役場職員に町長のことを聞いてみると、「やってみなさい」「提案してみてね」と言われることが多く、突拍子のない企画提案であっても、まずは話を聞いてくれるとのこと。宮坂町長や厚真町役場の考え方は、まるで子どもの成功を見守る父親のようです。
 

移住者のチャレンジが、町民の刺激になる

– 「失敗しても上のものが責任を取る、挑戦しよう」。そんな雰囲気の中から、今年新しく始まった事業が、「厚真町ローカルベンチャースクール」でした。

宮坂:これまでにいなかったようなタイプの方や、いろいろな分野の方々に集まっていただけたら、良いなと思っています。異なるタイプの人を排除するのではなく、色々な人を集めれば地域力も上がるし、人間関係も面白くなっていきます。

ただ、「基本を押さえた上で枠を飛び出す」ということは移住者の方にも、大事なことだと思います。自分で殻をつくって熟年世代の方を拒絶してしまったり、年配の方に迷惑をかけてしまったりでは、地域内で受け入れてもらうことができません。町民の皆さんに応援してもらえるような行動をして、グラデーションのように馴染んでいっていただきたいです。例えば、上手に笑顔をつくるとか(笑)。
 

そうすれば町役場や町民の皆さんは、挑戦する方々の成功や成長を、長い目で見ながらフォローしてくれます。ローカルベンチャースクールを担当する役場職員にも、部署を横断して起業家のために動けるように、本来業務として辞令を渡してあるんです。良い人材の獲得は我々の目標達成に不可欠ですし、人材獲得の地域間競争は既に始まっていますから、こちらも本気で頑張りたい。役場職員が、新たな挑戦者たちのサポート役になってくれたらいいなと思っています。

– 町役場が培ってきた人づくりの文化が、ローカルベンチャースクールを通じて、これからは移住者や起業家にも広がっていくわけですね。新しい挑戦者たちに、どのようなことを期待していますか。

宮坂:厚真町では約120年間、農業・林業・漁業が町の発展を支えてきました。私たちが大切にしてきた、一番潜在能力を持つ分野だと思いますので、農林水産業を材料に挑戦する事業を考えていただけるのは、嬉しいですね。

一次産業に親しんできた町民にとっては、自分たちが大切にしてきたもので、新しい人たちが新しい事業を起こしていく成功事例を見ることになります。成功事例が出れば、町民も触発されるし、「これから先、もう一段上を目指そう」という機運が生まれるでしょう。新しい人たちが挑戦していく姿に、自ら関わって心配したり応援したりしてくれる町民も出てくるはずです。

これまでは、町の外から来た人のことよりも、自分たちのことが先立つ時代だったんですよ。でも、「人口が減少し続けている時代だから、よそものや若者を応援し、協力しなければならないんだ」と、町民の皆さんにも思っていただけるようになってきたと思います。若い方々の挑戦に自分たちが支えられている実感が町民に出てくれば、起業型移住者に対する支援を、より一層進められるというプラスのスパイラルに向かっていくと思います。
 

歴史を縦軸に、挑戦を横軸に、新時代を編み上げていく

– 移住者と町民が刺激し合いながら、新しい産業を作り出していく。農林水産業に留まらない町の未来像を、宮坂町長は描いています。

宮坂:厚真町は農村部に加え山と海を抱えた町ですので、現在は農業、林業、漁業といった一次産業が中心です。しかし今後、一次産業で生活できる人たちが多く育ち始めれば、副次的に文化・芸術分野の仕事をする人たちが新たな芽を出す可能性があると思っています。北海道の最も弱い部分の一つが文化的な歴史です。クリエイティブな活動というのは、生活と心にゆとりがあって、その中で潤いを求めて生まれる部分だと思います。たくさんの芸術家の卵が気軽に集まって、将来を夢見て力を蓄え、生活できるようになる町が究極の完成形かもしれません。

ものづくりをされる方々にとっては、大都会よりも、自然の中で心を解き放って創造できる、厚真町のような環境が向いているんじゃないかとも思っています。近くに新千歳空港はあるし、公共交通網はきちんと整備されているし、雪はほとんど積もらない地域です。いろいろなことに挑戦するには、良い場所だと思いますよ。

– 先祖が切り拓いたものを受け継いで守るだけではなく、今の時代に合わせて活かし、新しいチャレンジをしながら、次の世代に受け渡していく。歴史を縦軸に、これからローカルベンチャースクールを通じて始まる新しい世代の挑戦を横軸に、町の新時代を編み上げていく段階に来ています。

宮坂:ローカルベンチャースクールは、外から来てくれる若い方だけでなく、町内の方にも挑戦してほしいと思っているんですよ。若い方々は野心があるけれど、先立つものや経験が少ない。ある程度年齢を重ねた方ならではの資産や経験もあると思います。定年を迎えた方がすぐに引退してしまっては、町は良くならない。ローカルベンチャースクールには、町内や50代以上の方にも挑戦いただけたら嬉しいですね。

どんな方でも、挑戦される方はきっと皆、私や役場職員たちが応援したくなるタイプの人です(笑)。ローカルベンチャースクールにエントリーする時点で自分の人生を懸けていて、それまでいた大きな木の下からポンと飛び出して、自分で人生を拓いていくわけだから。

– やりたいことに本気で挑む人がいれば、どのような事業であっても、厚真町の方々はきっと本気で応援してくれるでしょう。これから先、厚真町がどのような町になっていくかは挑戦者次第。ゆくゆくは厚真町が、新しい北海道を開拓する“新・開拓民”になるのではないか、と心からわくわくさせられるお話でした。

厚真ローカルベンチャースクール2016
http://guruguru.jp/atsuma/lvs

メールマガジン

いきるが、ひろがる。Through Me Magazine をお届けします。