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スープストックトーキョーでのクリエイティブ経験と、デザインの力を活かして地域で起業

最近東京や都市近郊によく見かけるスープ屋さん「スープストックトーキョー」のクリエイティブ室長として、ブランドのグラフィックから店舗デザイン、ディスプレイ、お皿やカトラリーのプロダクトまでをつくられてきた平井俊旭さん(46)。あちこちの地域を検討されて、最終的に滋賀県高島市に移住・起業されてから約1年。前職でのノウハウと知見を投入された、食を中心とした高島での事業展開について、お話を伺いました。(取材日:2016年7月28日)

‐ 平井さんは、高島市で会社をつくって、今はいくつかのプロジェクトを手掛けておられているそうですね。

平井:2015年4月に高島市へ移住してきて、雨上株式會社をつくりました。社名の“あめあがる”は、「雨が降って上がる」っていう自然の循環をイメージして付けました。現在、地域で滞りつつある人や事やお金に新たな循環を生み出す役割を担いたいなという思いがあって。会社といっても何人もスタッフがいるわけではなくて、今はとにかくできることを手当たり次第に一人でやっている状況です。

 

プロジェクト1.「びわ湖高島ブランド戦略推進事業」


平井:これは2015年8月に高島市が専門業者に委託して取ったアンケートの結果です。関東圏、中京圏、近畿圏で822名の回答がありましたが、高島市の認知度は関東圏、中京圏で極めて低く、また既に認知していただいている方にも「自然」以外の魅力が伝わっていないということが見て取れます。

市の側でも、この結果はある程度予測していて、2015年6月に「びわ湖高島ブランド戦略推進事業」という地域をブランド化するプロジェクトが立ち上がっていたんです。その推進を民間事業者に委託するコンペが行われて、弊社が受託することが出来ました。実際、ブランドなんてそんな簡単につくれるものじゃないのですが、博報堂の「属ブランディング」という考え方を踏襲させてもらいました。ファンづくりのためのブランディング。志・形・属の三要素から、地域を考えていく。つくる人の想いがまずあって、形がともなって、ファンをつくるという考え方なんです。まずは高島に住んでいる人が、自分の市を良いところだと思ってくれないと始まりません。市民が市内のことを知り、自らその良さを語り、ファンを増やしていくサイクルを継続していくという方針を立てました。

高島市の魅力は、今は姿を消しつつある「水のきれいな普通の田舎」が京都から1時間かからないところに残っているというところにあると思っています。都市部では自分で作った食材を自分で食べる事なんて、やりたくてもなかなか出来る事ではないですよね。しかし高島では食材を自分で作ったり、近所の人が育てたものを買ったり、いただいたりする事は珍しい事ではないんです。

そのギャップこそがブランド化されるべきポイントだと思い、「高島の食と人-3つの〇〇-」というウェブサイト(http://takashimashi.com)を立ち上げました。食材が作られて(あるいは採られて)料理されて、食べられるという一連の流れを独自のストーリーに仕立て、市内の有志の方に写真撮影と記事の取材とライティングをお願いしています。自分もほぼ全ての取材に立ち会っています。
またプロジェクトを通して「DiscoverJapan」誌にも参画いただき、紙面掲載や高橋俊宏編集長をお招きしたトークイベント「ディスカバー高島会議」を開催し、市内外にプロジェクトの経緯をプレゼンテーションしたり、地域の方に地元の魅力を再認識していただくための機会を設けています。

 

プロジェクト2. 「都市部における特産品販路開拓事業」

平井:こちらも高島市のコンペで受託したプロジェクトです。主なミッションは4つ有ります。1.「高島屋」を想定した新たな商取引の提案 2.消費者、生産者の意識調査 3.高島産品のブランディング 4.高島市農産ブランド認証制度の見直し です。コンサルティング会社「ランドブレイン社」との共同提案という形で提案し受託しました。雨上社がメインに取り組んでいるのは1.と3.です。

デパートの高島屋さんのルーツは、実は高島市に有るのですが、せっかくの縁を生かしきれていないので、今後は高島市の農産品の販路として、うまく連携できないかを考えています。現在は2017年の3月に行われる日本橋高島屋の催事「大近江展」にデビューさせるブランド「ヒビノハッコウ」の商品開発を進めています。

高島市には、「鮒寿し」や「鯖のへしこ」などの魚を使った発酵食を作る文化や、各家庭で味噌を仕込んでいたりという「発酵」の知恵が今でも継承されています。ただ、現代の食生活とは距離が出来てしまい、昨年まで市内に5つ有った「麹屋さん」も今年は2つになってしまうなど、そうした文化を継承してゆくことも徐々に難しくなってきているのも事実です。

そこで、現代の食卓に日常的に出てくる料理に「発酵」の知恵を活用した商品が、「ヒビノハッコウ」です。最初の商品は、甘酒の麹で熟成させた近江牛のモモ肉やロース。殺菌する前の甘酒を使い、肉のたんぱく質を分解させることで「うまみ成分」を作り出します。冷凍で販売し、家庭で焼いて召し上がっていただくものです。次の段階ではハンバーグの販売を検討しており、商品の幅を広げながら、地域の農産品の活用や食品製造会社の売り上げにつなげていけたらと考えています。

 

プロジェクト3.道の駅「藤樹の里あどがわ」のカフェテリア改装

– 平井さんは高島市に入られて1年後に道の駅のカフェのデザインを手がけられたとか。

平井:高島の中でも最も商業施設がまとまっている安曇川駅の近くに、「藤樹の里あどがわ」という道の駅があります。その指定管理のコンペに参加されたいという地元企業さんがいたので、僕は企画書作りのお手伝いをさせていただいた。その企業さんがコンペを取り、カフェテリアのデザインを任せてもらいました。ベンチの丸太とカウンターの天板は地元産の杉を使っています。ルーバーは3種類の異なるサイズの垂木をランダムに組み合わせました。ピッチを15mmに揃えることで不規則な並びに、規則性を持たせています。施工は地元の大工さんにお願いしましたが、予算の都合上ルーバーの仕上げは自分で塗装しました。(笑)

 

プロジェクト4.「高島市フットパスネットワーク事業」

こちらも市からの委託事業です。プロジェクトのタイトルは「フットパス」なのですが、自分が取り組んでいるのは「サトパス」という高島市独自のツアーの仕組みづくりです。「サト」は「里」を「パス」は「小径」を表しています。市内にある、マキノ高原観光株式会社の支配人であり、プロの山岳ガイドでもある前川正彦さんが、「サトパス」の提唱者。前川さんは山のガイドのコミュニケーションスキルを里地で応用することで、市内にプロのガイドを育成したいと考えられています。

高島市の魅力は先ほども言った通り「普通の田舎」であること。市内で働いている人が、自分達の仕事のフィールドをプロのガイドとして案内出来たら、誰にも真似の出来ないオリジナルな旅を提案できる。地元の若手経営者や作り手が、いまの仕事に支障をきたさないレベルで、自社の商品プロモーションも兼ねて、高島の魅力をガイドしていく。お客様にとっても、ガイドにとっても、地域にとってもメリットがあります。既にプレツアーの実施が決まっており、2017年の2月にはプロモーション映像も公開予定です。

 

つくる必然性がないものを、つくりたくない

– 平井さんは、ずいぶん以前から地域に眼を向けておられると思います。確か、初めてお会いしたのは京都の美山でしたね。その後、ばったりと山形県でお会いしたこともありました。プロジェクトの話を聞いていても、使う材料の原産地についてもこだわっておられるんだなと思います。そのお考えは、どこから生まれてきたのでしょうか?

平井:2008年に、スープストックトーキョーが事故米不正転売事件に巻き込まれたことがあったんです。本来食用では無い輸入米を卸し問屋が意図的に食用の餅米と偽って転売したものなのですが、それが一時期スープの工場に入ってしまっていたのです。それから原産地に意識が向くようになりました。

その事件以降、店づくりに使う木材に海外からの違法木材が含まれている可能性を知り、産地の特定できる国産の木材をつかう取り組みをスープストックトーキョーでも始めました。そのきっかけを作って下さった三重県紀北町の速水林業の速水社長が主催する林業塾に参加させていただき、そこで牧さんとも知り合って。

– そうか、スープストックの空間に国産の木材を使ったことから、林業の先進地である尾鷲で牧さんと出会ったんですね。それが地域で起業を考える最初のきっかけになった。

平井:これまでは、株式会社スマイルズ(当時スープストックトーキョーの事業主体だったが、2016年より会社分割 http://www.smiles.co.jp/)の遠山社長のヴィジョンをいかにデザインで具現化していくかが自分の役割だと思って、15年間やって来たんです。創業間もないよちよち歩きのブランドから、全国に60店舗以上あるチェーン店とへと成長してゆくプロセスに関わることが出来ました。入社当時に自分が思い描いていたことがほぼ具現化出来たな、という納得感も持てるようになりました。

そして今度は遠山さんではなく、自分でヴィジョンを描いて実行していきたいと思うようになりました。同時に木材を通して垣間見てきた地域というフィールドには、ディレクションする人が足りていないと強く感じていた。なので、どこかの地域で自分の経験を生かせないかと考えるようになりました。地域がそれぞれの魅力を発揮して活性化したら、もっと国土を有効に活用出来るんじゃないかなあ、って。東京での競い合いだけが全てでは無いと思うようになっていましたね。

とはいえ全くやったことの無いことに挑戦するので、都心部からある程度近く、人に来てもらいやすい場所を考えていました。そこで牧さんにたまたまご紹介いただいたのが高島だったんです。高島は京都から一時間くらいですが、突然ダイナミックに世界観が変わるなあと、そのギャップ感が面白いと思いました。

2014年の5月に初めて来て、その2カ月後にもう一度来て勝手にプランを作りました。そして10月に清水さんを牧さんに紹介していただき、求められてもいないのに勝手にプレゼンしたりして。この地域の可能性や清水さんの地域に対する思いを聞いて、ここにかけてみようと。でも引っ越してきたときには何の契約も仕事も無かったので、あまりお勧めできるやり方ではないかもしれませんね(笑)

 

マンションで暮らす、地域起業家の日常

– 日常のことをお聞きしますが、お昼ってどういうところで食べてますか?田舎で単身で暮らす、それも起業って、食事や家事など暮らしの面でなかなか大変なんじゃないかなと思いまして。

平井:お昼は少しでも余裕があれば、「古良暮」「ワニカフェ」「ロータスリーフ」など地元の素敵なカフェに立ち寄ります。オーナーとも仲良くさせてもらっているのでカウンターに座って情報交換させてもらったり。でもあまりに忙しい日は、安曇川の駅周辺にある、ココイチとか丸亀製麺とかで済ませることも良くありますね(笑)。

家で作る時は、野菜を混ぜたなんちゃってペペロンチーノとかですかね。住んでいるところは古民家改装とかではなくて、家賃7万円のマンションです。JR安曇川駅近くのマンションが、自宅兼オフィス。独身。バツイチ。ストレスなく一緒に仕事ができる人と結婚ができれば理想的だなあと思っていますが。社員雇うと大変なんで、兼業っていうのが田舎らしくて良いのではと(笑)

マンションの隣に畑があるので、そこで野菜を育てていまして。と言っても5月の連休に苗を買ってきて植えるだけ、あとはほぼほったらかし。キュウリ、ズッキーニ2種類、トマト2種類、とうもろこし、バジル、ピーマン、満願寺唐辛子、パプリカ2種類、かぼちゃ、オクラ、いんげん、ナス2種類、ゴーヤ。夜は野菜を使って、できるだけ自分で食事をつくっています。

出身が鎌倉なので、田舎暮らしっていうのはほぼ初めての体験です。一人の会社の割には仕事の範囲が広すぎて、現実問題として集落の催しや草刈りなどをお手伝いする余裕が全くないのです。マンションだから、なんとかなっています。ほぼ高島に居ますが、東京へも月一回ほど、京都へも打ち合わせ等で行くことが良くあります。

– 田舎で暮らしていても、みんながみんな、古民家に住まなくてもいいですよね。それにしても、これだけさまざまなことを移住して一年で行えるのは、やはり受け入れ側の協力が欠かせないのかなと思うのですが。

平井:やはり清水さんの存在が大きかったですね。「高島に移住することを本格的に考えたい」って言ったら、2015年の風と土の交藝のイベントの間に、いろいろ案内してくれました。若いメンバーへ繋いでくれたり、引っ越したときには歓迎会をやってくれたり。このマンションの物件を探してくれたのも、清水さんです。

高島に移る上で、扉を開けて迎えてくれたなあ、と思います。縁もゆかりもないところから入ってくる上で、清水さんのような地域のエンジンとなる方の存在は非常に大きいですね。ざっくりでもいいから、窓口を広げてくれるだけで、その後の展開が全く変わってくると思います。

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