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西粟倉で起業しませんか:フードハブで作り手と買い手をつないで、小規模農家の未来をつくる

西粟倉の主力事業といえば、林業。でも実は、村の全世帯の70%以上が兼業ながら農業に従事しています。しかし、村内に西粟倉の農作物を買える場所はほぼありません。「つくられた農作物を活かす仕組みが今の西粟倉にはないんです。このままだと放置される農地が増えて、村の景観が崩れてしまう」。村役場のローカルベンチャー担当でもあり、兼業農家の家に育ってきた井上大輔さんは、作り手と買い手をつなぐフードハブが生まれることで、村の農家さんたちを助け、それが全国でも通用する新しい農業につながっていくと考えています。
 

個人の奮闘に頼る、西粟倉の農業事情。

– 「百年の森林構想」をはじめ、林業のイメージが強い西粟倉村ですが、村の550世帯中、山や農地を持ってる世帯は500世帯くらいあるそうですね。先祖から継いできた土地を大切にしながら、兼業ではあるけれど農業に従事している方々が多いと聞きました。
 


井上:専業農家はほぼおらず、何かしら別に本業を持ちながら米や野菜を作っている、兼業農家が多いです。中山間地はどこもそうだと思いますが、西粟倉の農地は山を切り開いているので傾斜が多く、田んぼと法面の面積が一緒だったりするんです。草刈り、大変なんですよ(笑)

広い田畑だったら大きい機械を入れて効率よく手入れすることもできるけど、狭くて大きな機械も入らないところもある。一生懸命やっている人たちは、作るのが好きだからとか、自分がやらないと畑が荒れるからといった使命感で取り組んでいますね。若い人はあんまりやってなくて、僕らの親世代が頑張っています。

– 井上さんは、このまま担い手がいなくなると農地が荒れて、将来的に村の景観も崩れていくという危機感を持たれています。同じような問題意識を持つ人も多いのでしょうか。

井上:上の世代が続けているから、そういった危機感はまだ薄いように思いますね。僕の家も、まだ親父が元気に田畑をやっていて、僕はそんなに農業に関わっていないんです。ただ、彼らが作れなくなったら、次世代でどうにかしなくてはいけない。いずれ来る問題だけれど、まだあんまり顕在化してないんです。

けれど、いざ継ぐとなった時、下の世代はめっちゃ困ると思います。僕自身、西粟倉村で生まれ育ってはいるけれど、農業はがっつりやったことがなくて。大学進学で一度県外に出て、役場に就職が決まって村に戻ってきたものの、きちんと畑仕事を教えてもらってもいない。

– 移住者が多い西粟倉だと、「ちょっと小さい畑をやってみたいな」という方もいると思うんですが、そういう方に活用してもらったりも難しい?
 

「自分で作ることができないなら人に貸そう」と思っても、気軽にはできないんですよ。貸したい人と借りたい人のマッチングができていなかったり、農業委員会で利用権設定の決定が必要など、運用や制度の縛りがいろいろあって、「自家消費分のお米や野菜を作れたらな」という人がいても、積極的に貸すことができないんです。使われない農地があるなら宅地に転用しよう…というのも、今の法規制ではとても難しい。そういう事情も、農地の放置につながっていくと思います。

– 前の世代が頑張っているからこそ次世代へのノウハウ共有がされていなかったり、新しい取り組みをしたくても法規制に阻まれてしまう。西粟倉の課題でもあり、日本中どこでも当てはまる課題です。

井上:そうですね。西粟倉は田んぼや畑の場所がばらばらなので、山1つをがばっとカバーできる林業とは違うアプローチが必要です。僕の考えのベースとして、中山間地域に合った農業の形を探したいんです。山に囲まれた西粟倉で、ある程度成立する仕組みができたら、農業ってどの土地にもあるものだから、きっと日本中で転用できると思っています。

 

村外の野菜に負けない! 「フードハブ構想」で新販路を作る

– 兼業とはいえそれなりに農業従事者がいることを考えると、西粟倉産の農産物を見かける機会があっても良さそうです。が、私も何回か西粟倉を訪ねていますが、西粟倉産の野菜をお店で1回も食べたことがないような……。

井上:飲食店や道の駅への、流通経路が整ってないんです。農家の家にお邪魔したり、もらったりじゃないと食べる機会はあまりないと思います。すごくもったいないですよね。実は西粟倉の野菜はオーガニックも多いんですよ。お年寄りにとって肥料や農薬は重たくて重労働なので、使うのも一苦労。意図せずして無農薬な野菜ができているんです。
 

– もったいないですね。確かに道の駅でも、野菜はたくさん並んでいるものの、産地を見てみたら県外のものが多くって。

井上:昔は西粟倉の野菜をもっと置いていたんですよ。小規模農家さんが野菜を朝、売り場まで持ってきて、夜には売れ残ったものを持って帰っていたんだけど、高齢化により徐々に出てくる野菜が減ってきたんです。気づけば大量に仕入れやすい県外の野菜が中心になってしまった。まずは農家さんとの関係をつくりながら、村内施設に西粟倉の野菜を納入していくことから始めてもいい。

今、村内の道の駅で野菜を取り扱っていて、バスツアーのお客さんが買っていかれることもあり、売り上げは年間1億3,000万円くらい。個人事業主であれば、卸の手数料でビジネスが成立する規模感ですし、村の八百屋として成立すると思います。

– これまで自家消費していた農作物を売っていけたら、農家さんたちの副収入にもつながりますね。

井上:月に数万円の現金収入が増えるだけで、助かる方々は多いと思います。今の作り手さんたちは年金をもらっている人たちがほとんどなんです。少しのお金があるだけで、タバコ代とか孫へのプレゼントとか、そういうおじいちゃんおばあちゃん達の楽しみが増える。

お年寄りの兼業農家にとって、収穫して、自分でお店に納品して、売れ残ったものを夜に持って帰ってきて、という流れを毎日続けるのは難しい。そこを少しサポートしてあげられれば、売るハードルもぐっと下がる。各集落ごとに野菜の回収場所を決めて、彼らが作った野菜を集め、道の駅などで売っていく。余ったものは買い取ってレストランで料理に使うとか、そういう仕組みが必要なんです。

– そうした、村で作られた食材を村で消費するハブとなっていくのが、提案された「フードハブ」なんですね。
 

井上:今は、元湯さんやクラシカさんなど、新しい宿泊施設も増えてきています。そういう場所でも、西粟倉産の野菜を使ってもらえるようになったらいいなと思っています。地産地消って、言うのは簡単だけど、やるのは手間がかかりますよね。でも、これからは大量生産大量消費じゃない、村ならではの消費をつくっていく場所が必要だと思います。
 

個人的でもいい。自由な発想で、西粟倉の農業を変えて欲しい

– 井上さんが考えたフードハブ構想は、1つのアイデアではあるけれど、絶対にこうしてほしいってものではないですよね。むしろ、この話を聞いて、「だったらシェフの経験を生かして、野菜を活かしたレストランやろうかな」とかでもいい。

井上:まずは僕の話にピンときてくれた人が実際に西粟倉にきて、動いていくことが大事だと思っています。その人が何をやってきたか、何をやりたいかにもよるし、本当にケースバイケースですね。自分でも農業を少しやりながら、自分の野菜の販路開拓とともに、作り手をサポートしようとか、そういうのでもいいんです。

西粟倉の農家さんは売って儲ける、という気があまりないので、同じ時期に同じ野菜を作りがちなんです。そういう農家さんたちの生産調整や営農指導をやったり、どこで売るかを流れとして作っていければ、村の農業の可能性はすごく広がる気がしています。みんな林業には力を入れてきたけど、農業は長いこと放置プレイだったので、小さくてもいいので実績を作っていきたいんです。

– 生産調整や営農指導は、一般的には農協とかが手掛けてきたことですよね。今、そこを超えて新しい仕組みが必要になっている。できることがたくさんありそうです。

井上:何もやってない、まっさらな状態ですからね(笑)。村内に、道の駅や大型バイキングレストランなど、売るための出口があるのも有利だと思います。バスツアーのお客さんなども多く、今売れている野菜の量を考えると、西粟倉で作られている農作物はそこで全部捌けると思う。そうした仕入れが上手なレストラン経営なんかもありですよね。

– 井上さんの先輩である上山さんが「赤字施設再建」をローカルベンチャースクールのテーマとして提案していますが、村内施設を盛り上げてくれるテナントを募集していますね。八百屋、レストラン、加工販売…できることはたくさんありそうです。

 

井上:収穫された農作物からシェフがその日のメニューを考えて提供したり、有機野菜とカレーのスパイスをキットで通販するとか、アイデア次第でいろんな可能性があります。施設の設備も、いいんですよ。業務用の冷凍庫や調理場なんかも揃っていますし、自前で揃えたら大変でも、そうした村内の資源を組み合わせたらコストも抑えられる。

アイデアは、自分自身に引き寄せた、自分がやりたいことで全然いいんです。「自分だったら、野菜や農地との関係の中で、こんなことが出来るかも」って。西粟倉でいい事例が生まれて、その事例を1つのパターンとして活用できる人たちが増えて、ハブという形になっていくのが理想ですね。

西粟倉ローカルベンチャースクール2016

http://guruguru.jp/nishihour/lvs