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自分で自分をごまかさない。「本当のあなた」に向き合う、西粟倉ローカルベンチャースクール1次選考会

地域に根を張って事業をしたい。そんな人たちの生態系ができつつある注目の村、岡山県西粟倉村。「起業したい」「事業を新たな形で展開させたい」という方向けの起業支援プログラム『西粟倉ローカルベンチャースクール』も2年目の開催を迎えています。新しい事業がどんどん生まれるなんて、どんな場なんだろう。1次選考会にお邪魔してみると、単なる選考を超え、参加者の想いの根源にとことん向き合う、厳しくも温かい場所がありました。

 

「ちゃんと稼ごう」に共感し、1次選考に集まった7組

これまでも多くの事業が誕生してきたという、岡山県西粟倉村。この村で、ローカルベンチャーの発掘・育成を行う「ローカルベンチャースクール」の企画・運営を担っているのは、村の人事部としての機能を持つ、エーゼロ株式会社(以下エーゼロ)。西粟倉村役場と二人三脚で、この企画を作り上げ、開催は今年で2年目となります。
 

私が西粟倉村に足を踏み入れるのは、今回の取材が初めて。都心でずっと暮らしてきた私は、物事の移り変わりが早い場所ではなく、自然豊かな地域で暮らすという選択肢を、ちょうど考えてみたくなっていました。でも、実際地域でどうやって働き、生きていくのか。イメージは湧きません。そんな時に、この西粟倉村と、ローカルベンチャースクールというイベントに出会ったのです。山間にある人口1,500人の過疎の村で、起業家が生まれ育っていく。何となくギャップのあるものが、共存しているようです。一体どんなところなんでしょう。

ローカルベンチャースクールは、地域で立ち上げたい事業計画を提出し、書類選考の通過者は、1次選考会、最終選考会へと進んでいきます。12月の最終選考会でプランが承認されたチームは、この村に住みながら、地域おこし協力隊制度を活用して、最長3年間資金を得つつ事業の立ち上げを行うことができます。

今回、西粟倉ローカルベンチャースクールでは「ちゃんと稼ごう」というテーマを掲げていました。応募要件として具体的に定めていたのは、以下のいずれかを満たすプランというものです。

・3年後に年間売上1億円以上もしくは従業員数10人以上を目標とする事業
・売り上げ規模は小さくとも、村の未来に大きな影響を見込める事業

これだけ見ると、何だか堅苦しいような、ハードルが高いような…。でも、西粟倉村はあらかじめこんな想いも伝えていました。田舎だから儲けなくていい、ではない。ちゃんと稼げる事業をつくることが、事業を起こす人にとっても、ひいては村にとってもよい結果につながる、と。

そんな募集に対し、東京から村内の方まで様々な地から応募があり、7組の皆さんが書類選考を通過。イチゴの栽培・製菓事業、ジビエ食堂、障害者就労支援、林業の民間事業会社など多岐に渡るテーマが揃いました。
 


 

「あなたは本当にそれをやりたいの?」

10月28日、エーゼロの社屋でもある旧影石小学校に集ったのは、7組の参加者の他、エーゼロスタッフ、7人の西粟倉村役場職員、それに外部の強力なメンター。初日は各チームごとに事業計画をひたすらブラッシュアップする日。2日目に中間プレゼンテーションと、チーフメンターのTeam♡KATSUYA・勝屋久さんによる講演の後、1次選考プレゼンテーションを経て、選考結果が決まります。
 


7名の役場職員は参加者それぞれの村内メンターとして、企画内容や、なぜそれをやりたいかなどを聞いていきます。印象的だったのは、とにかく役場の皆さんが実にフラット、かつ”可能性を紡いでくれる”人たちだったこと。冒頭で「役場のみなさんには、普段の行政としての立場を取り払って、一村民として参加していただいています」とエーゼロの代表牧大介さんが話していましたが、どの方も参加者の考えに、純粋に興味を持っているのが伝わってきます。

一般的には、選考っていうとなんだか怖いイメージがありますが、ここでは選考する側・される側という感じは皆無。笑いながら話す姿は、一体どちらが参加者かわからないほど。事業内容を聞いた上で、「じゃあ、この場所でやるのがいいんじゃない?」と、村内の施設へ視察見学に出かけていくチームの姿もありました。

心強い味方は、村内メンターだけではありません。村外のプロ3人にプランを見てもらう、ブラッシュアップの時間も設けられました。参加者は三者三様の視点から「あなたはこの事業で、何をやりたいのか」という問いを重ねられていきます。
 

この「あなたは何をやりたいのか」という視点は、ローカルベンチャーの肝とも言える部分。地域で事業を起こす、と聞くと「地域の経済を活性化しよう」「地域にある資源(自然資源や文化資源)を活かそう」ということをイメージしやすいものです。でも、地域に根を張って事業をしようとする中で、最後に大事なのは「自分は本当にこれをやりたいと思っている?」という点なのではないか。西粟倉村は、昨年からそんなメッセージを繰り返し伝えてきました。

問いかけが進むに連れ、参加者の皆さんは二手に分かれていきました。「何をやりたいのか」がはっきり伝えられる人は、自身の想いと実現したい事業が1本に繋がっています。そのため、初日から事業をする上での算段がつく、場所の候補地名が挙がってくるなど、計画に具体性が増していきます。

一方、何がやりたいのかをまだ上手く伝えられない人もいました。「まずそもそも、何に興味があるの?」というところから自身を見つめ直すよう、メンターたちからも迫られます。その1人が、生まれも育ちも西粟倉村の、大橋さんです。
 

自分で自分をごまかさない。決意したときから人は変われる

西粟倉村に増えていくユニークな事業家たちに影響を受け、「自分もチャレンジしたい」と今回の企画に応募した大橋さん。事業プランは、大橋さんが携わっている村の障がい者就労支援事業を立て直そうというものです。利用者不足の改善のため賃金アップを図るなど、3つの柱を掲げました。実現できれば、障がい者の方にとってだけでなく、地域の福祉という観点からも大きな一歩を踏み出せます。
 

企画書は一見すると、現状の課題から打ち手、目指す姿とそのスケジュールまでが揃ったきれいな内容。ところが「なぜ賃金UPが課題だと思ったの?」「この計画をどうやって実現させていこうとしているの?」と詳細を突っ込まれると、中々ことばが出てきません。困った様子の大橋さん。中間プレゼンテーションの後、チーフメンターの勝屋さんからは「社会貢献できるのはいいけど、あなたがやりたいという想いがみえないと、ただ痛々しくなっちゃうよ」という厳しいことばも出ました。

確かにプレゼンテーションを聞いていると、ぼんやりとやりたいことはわかるものの、大橋さんの想いは見えにくい。でも、ご本人にも何に興味があるか捉えられていないのに、一体どうしたらいいんだろう?そんな大橋さんが、最後のプレゼンでは、見違えるように変化したのです。きっかけは、勝屋さんの講演でした。

「この講義は、決して左脳で聞いてほしくない。考えないで、感じてほしい。」
そんな言葉で始まった勝屋さんの講演。勝屋ご夫妻のことは一言で表現しきれないので、以前の記事を見ていただきたいのですが、その活動は既存の職業の枠組みでは捉えられず、勝屋さんという人=職業「katchaman」として、そして奥様の祐子さんと共に「Team♡KATSUYA」としてあらゆる分野で活躍されています。講演で前に映し出されるのは、katchamanが画家として書き下ろした、極彩のプレゼンテーション資料。
 

もともとは成果を出すことが全てで、生粋の左脳型人間だった勝屋さん。その頃の直立不動で無表情なスーツ姿の写真と、目の前にいるいきいきとした勝屋さんは、別人に見えます。
 


変化していけたのは、自分の心の赴く方向にいくことが大事なんだと気づき、少しずつ実行していったから。世の中の常識はこうだからとか、自分は能力がないからできないとか、外で作られた視点で無意識に自分自身の可能性を狭めていることは、実は山ほどあります。でも「これ、いいな」「ちょっとおかしいな」という自分の小さな感覚を積み重ねていくと、周りに左右されなくなり、やがては想いとやりたいことが1本の大木のようになっていく。そのことを、勝屋さんはご自身の人生を例に話していきました。

エネルギー溢れる話を受け、会場は静かな興奮に包まれました。皆、参加者、メンター、スタッフという枠組みも忘れて自分を見つめ、それまで言えなかった本音をぽつりぽつりと話していきます。「実は自分を変えたいと思ってここまできた。でも変われないことがもどかしい」「自分にとって本当に大事なのは、仕事ではなく子どもなんです」。そうした本音を、いいじゃないいいじゃない、言えることが大事なんだよと、勝屋さんは温かく受け止めます。

そして、大橋さんからは「今の内容でプレゼンをしていても、違和感しかない。どうしたらいいのでしょうか」という問いかけが。奥様の祐子さんは、どうしたらいいかという”手法”について答えるのではなく、こう話しました。「人のために、ということだけを言って動く方が楽だと思うの。そこから脱却するには、勇気と覚悟が必要。自分で自分をごまかさない、ということができるようになると自分も周りも本当はハッピーになると思うよ。」

そうしたやり取りの後、大橋さんの最終プレゼンテーションは、別人のようでした。
 

これまでの企画は一旦白紙に戻し、掲げたテーマは「心が震えた瞬間」。障がい者の方が、その人にしか持ちえない能力を活かして活躍できたのを見たときが、心震えた瞬間だと語る大橋さん。無理やりつくった事業計画ではなく、本来持っていた純粋な想いに立ち返ったのです。「プランとしては0から組み立て直しです」と話す笑顔は、確かなものを掴んだ人の表情に見えます。

人って、こんなに変化することができるんだ。会場は拍手喝采。祐子さんは「ことばにならないイメージの部分で、大橋さんのやりたいことが伝わってきた」と話しました。大橋さんのことを幼い頃から知っている役場の方は、「物静かな大橋くんが、まさか人前であんなに堂々と話すなんて」と、静かに感激。自分で自分をごまかさない。その第一歩が、早くも感動の渦を巻き起こしていったのです。
 

安心・安全・本音の場だからこそ、生まれる事業がある

1次選考は、参加者7組のうち最終選考に進みたいと手を挙げた6組全員が、通過することとなりました。参加者のみなさんも、ほっとした表情。一同、解放感に包まれ、お酒に料理に興じます。しかし参加者のみなさんにとって、本番はこれからです。
 

12月中旬の最終選考では、プランの完成度だけでなく、1次選考会から約1ヶ月間でどんな変化があったか、どれくらい自分や事業と向き合えたのかも、審査のポイントとなります。参加者はこの1ヶ月強で、メンターと連絡を取り合いながらプランを具現化し、磨き上げていくのです。メンターをどのように”使っていくか”も参加者それぞれにかかっています。

でも、今回1組1組のプランや想いを真近で聞いていて、それぞれのストーリーを書きたくてたまらなくなるような事業、そして”人”ばかりでした。ぜひすべてのプランが実現してほしい。そんな風に思います。

 


1次選考が終わり、西粟倉を離れて数日。ようやく、静かな興奮状態から落ち着いたところでふと思ったのは、最初はギャップがあるように見えた「過疎の村」と「起業家の集う村」という組み合わせが、行ってみると不思議と自然な感じがしたということでした。

それは多分、行政が設定したテーマに無理矢理沿わせるのではなく、個人がほんとうにわくわくするものに向き合えるような場が、ローカルベンチャースクールにはあるからだろうと思います。

そして、なぜあんなに高エネルギーなイベントが出来上がったんだろう。あんなに人が変わっていくんだろうという疑問も浮かびました。そこで思い出したのが、選考が終わったあと、勝屋さんがおっしゃった「ローカルベンチャースクールは、安心・安全・本音の場だね」という一言。

事業を立ち上げるか否かに関わらず、普段仕事の場面で「きみの本音が大事なんだよ」と言ってもらえる場面は、ほとんどないのではないかと思います。それよりはとにかく「がんばって、早く成果を出す」ことを求められがちなのではないでしょうか。でも、ちょっと言いにくいことでも愛情をもって「言ってごらん」と声をかけてもらえる雰囲気が、この場にはありました。それが、立場に関わらず本音を言い合うことにつながり、やがて事業や人を変化させていったのだと思います。こういう空気感の中でこそ、自分自身を見つめ直すことができ、芯の強い事業が新たに生まれていくのかもしれません。

次回は、いよいよどのプランが支援対象事業として承認されるかが決まります。どんな事業がこの村で誕生するのか。最終選考会の様子も、お届けしていきます。

西粟倉ローカルベンチャースクール最終選考 【前編】記事はこちら
                     【後編】記事はこちら

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